* to my dearest partner -4- *
次の日の早朝、オレは自分のくしゃみで目が覚めた。
一瞬状況が理解できなくて、キョロキョロと周りを見回した。
太陽が丁度東の空から昇る頃。
冷たい空気が肺に心地良くて。
明星が溜め息をつくほど綺麗だった。
自分が居たのは、家の外。
家のドアに凭れ掛かってた。
隣に居たのは…大石。
どうやら、昨晩話の途中で二人とも寝てしまったらしい。
ここの地域は比較的安全だから良かったものの、
夜に少年二人が外で寝てるなんて、なんて危険な。
オレは自分で苦笑した。
そして直後、微笑した。
オレと大石の手は、しっかり握られていたんだ。
温かかった。
放したく無いけど、それは無理だから。
でも大丈夫。
心が、繋がっているから……。
オレは大石を起こすと、駅の電車の時間を教えて、自分の家に帰った。
(オレはドアの中に入っただけだけど。)
オレはこっそり自分の部屋に戻って、
家族の皆が起きるまで寝た。
幸い、お互い家族に夜中のエスケープは気付かれていなかったようだ。
別れてから、約5時間後、
オレと大石は駅で再開した。
そして、最後の会合。
「……」
「……」
口から言葉が出てこなかった。
お互い黙り込んでいた。
でも、相手の目を覗き込んで。
大石も、オレも、笑顔だったと思う。
「…またね」
オレが行くんだから、オレから言わなきゃ、と思って切り出した。
“また”って言葉は、使わないつもりだったのに。
昨日までの気持ちだったら。
今は、信じてる。
またの再開を。
すっぱり切れてはしまわないから。
「…また、逢えるよね?」
「当たり前だろう?」
大石は、さも当然かのように言った。
その自信は一体どんな根拠の元に出てきているのか…と考えていると、
大石はこんなことを言った。
「英二は、向こうに行ってもテニスを続けるのか?」
「え?うん…そのつもりだけど」
「じゃあさ」
大石は、笑って言った。
「全国で、会おう!」
その言葉、心にジンと来た。
言うなら、熱いフライパンに水を掛けてジュッてしたときみたいな。
心に、強く沁み込んできた。
二人で、目指していた全国。
ずっと目標にして、一緒に目指していたゴール。
また、同じ場所を目指すんだって。
なんだか、まだ別れてもいないのに、
その再開のときがが楽しみになって、オレの心が躍った。
新しく立てられた、馴染んだ目標に胸を弾ませていた…のに、
大石は哀しそうな表情をしていた。
オレがその顔をじっと見つめていると、
大石はそれに気付いて、苦笑しながら言ってきた。
「…俺、全国まで行けるかな…」
「え、だって今約束したじゃん!!」
目標立てた瞬間に弱音かよ、と思うと大石はこんな言葉。
「正直、自分の力ではシングルスだとどこまで行けるか分からない。
かといって、……ダブルスでも、英二以上のパートナーが見つかるとも思えない」
「……」
どんどん視界が歪んでいく。
涙が溢れてきたんだ。
大石の姿が霞んだ。
目を閉じると、雫が頬を伝った。
笑顔でお別れしたいから、涙は流さないって決めたのに。
オレは必死に涙を止めようとした。
出来るだけ楽しいことを考えようとした。
でも、思いつかなかった。
なんだか、逢える希望が潰された気がして。
他にも逢える可能性は勿論あるけれど、心が動転していて。
大丈夫になった別れが、また怖くなった。
「離れ離れじゃ何も出来ないな、俺達」
「…うん」
大石はオレのことをギュッと抱き締めてくれた。
それで、少しだけ落ち着いてきた。
大石の服に、涙が吸い取られた。
もう一度目をそっと閉じた。
温かさに安心したのか、涙は治まった。
もう大丈夫、とオレは大石から体を離した。
少し涙声だったのが自分で分かったけど、
涙はしっかり止まっている。
だけどやっぱり、哀しくて。
一人一人だと、なんて小さいんだろうって。
なんてオレ達って無力なんだろうって。
現実を突きつけられて、自分に減滅した。
大石を見上げた。すると……
笑っていた。
それも、凄く嬉しそうに。
「おおいし…?」
「ん?」
「どうして、笑って、るの…?」
オレは驚いてしまって、思わず言葉が途切れ途切れになってしまった。
今日の大石は、オレの心境の反対の表情ばかりする。
喜べば哀しそうな顔するし、
悲しめば嬉しそうな顔するし。
大石は、言った。
「いや…嬉しくって」
「!?」
嬉しそうな表情をすると思ったら、実際嬉しかったらしい。
でも、どうして?
人が淋しがってるのに、笑うのはないだろう!?
一瞬治まった涙が、また戻ってきそうになった。
オレはそれを必死に喉の奥で食い止めた。
オレが格闘していると、大石は笑顔で言った。
「こんないいパートナーに、出会えて良かったなって」
「……!」
結局、オレの目からは涙が溢れ出した。
頑張って止めようとしたけど、止まらなくて。
それどころかしゃくり上げてしまった。
「英二…」
「うっ…っく。お、オレってば、なっさけねぇ〜…っ!
こんな、ボロボ…ロ泣いて、女みてぇー…っく」
「大丈夫だよ」
大石は、また抱き締めてくれた。
温かくて、安心して、落ち着いた。
でも、涙が止まらない。
それで、オレは気付いた。
これは、嬉し涙なんだって……。
「英二…」
「へへ、エヘヘ…」
オレの顔を覗き込んでくる大石に、オレは笑った。
というか、自然に笑みが零れたんだ。
大石も笑顔だった。
「大、丈夫…だよ。オレ、悲しくない、から…」
「…うん」
「たまに、淋しくて…泣きたくなる、ときも、あるかもしれないけど…。
そういうときは…大石のこと、思い出す!心は、一緒だってこと…!」
「俺も…そうするよ」
二人、笑い合った。
オレは少し涙を流しつつ、だけど。
顔はちゃんとした笑顔になってたと思うんだ。
いや、勿論顔だけじゃなくて心の中もだけど。
「でも…結局こうなるんだったら、
みんなにも予め伝えておけば良かったな…」
「やっぱり、そういうと思った」
「?」
オレが後悔の言葉を言うと、
大石は携帯を取り出して、「OK、いいぞ」、と一言だけ言った。
すると、10秒ほどして。
「「英二・菊丸先輩!!」」
「!?」
青学テニス部全員が一斉に階段を駆け上がってきた。
もうそれはそれは凄い人で。
回りの人が全員そっちを振り返っていた。
オレは、鳩が豆鉄砲を食らった感じのような気分。
「な、なななっ!?」
「英二、きっとみんなに会いたがるだろうと思って、
家帰ってから連絡しておいたんだ。了承が出るまでは隠しておいたけど」
「そうだったんだ…」
見回すと、今まで共に青春を過ごした仲間たち。
オレは、幸せ者だと思った。
これから会えなくなるのは寂しいけれど、
こうして、仲間に囲まれ快く送り出してもらえるのだから。
「英二、向こうでも頑張ってね!」
「手紙送れよ」
「応援してます!」
「菊丸先輩のこと絶対忘れません!」
全員が一斉に喋ってきた。
更に、ほぼ同時に電車が前の駅を出発したことを告げるアナウンス。
声を聞き取るのが大変だった。
でも、心は伝わってきた。
みんなが一通り喋り終えた後。
オレは、ただ一言。
「ありがとう。それから…」
『また、いつか――…』
電車が遂に到着。
オレは鞄を持ち上げる。
家族が居る方へ向かう。
電車に足を踏み入れる、その直前、
一番最後に、オレは、大石に言った。
「バイバイ。オレの、ベストパートナー…」
そして、最愛の人。
電車の中から手を振った。
ゆっくりと、電車が動き出す。
数人が、電車に合わせて走り出してくる。
泣いてる人も見えた。
でも、オレは笑顔。
アイツも、笑顔だった…。
一歩も動かないで、オレが電車に乗ったその位置で、
ずっとこっちを見てきていた。
約束したから。
また逢おうって。
確認したから。
また逢えるって。
どのような状況でになるかは、分からないけれど。
信じている限り、心は繋がっているから。
「さようなら…ありがとう……またね」
誰にも聞こえないくらい、小さく呟いた。
あの人に向けて…。
→
やった!ついに表で連載物が!(万々歳!/てかまずそれかよ)
突然書きたくなったんで書いちゃいました。あは。
引っ越しネタ好きだな、自分。
ドリムでもう一個引っ越しネタがあるのに(まだか)、
言いたいこと全部こっちに詰め込んじゃった気が。(ぉ
題名は、最後の一行に連れてきた。日本語にして。
直訳じゃないけどね。あの人と書いて最愛のパートナーと読む?(謎)
結構気に入ってます。
なんかノリが月の終わり(裏々長編連載)に似たかな、とか思った。部分的に。
ま、いいや。稲瀬の作品傾向こんな感じ。(唐突)
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
2002/12/12