* 月の終わり *
-the night with no moon- part.5
こっちの世界へ帰ってきて。
暫く、英二は意識を失っていた。
伏せられている、綺麗な睫毛の乗った瞼。
少し撥ねた髪の間から見える額。
静かに聞こえる吐息。
全てが、全てが愛しかった。
目を覚ました英二は、自分の現状を理解していないみたいだったけど。
楽しそうに話したり。
無邪気な笑顔を見せたり。
勢いをつけて飛びついてきたり。
英二だった。
久しぶりに感じた、本物の英二の感触だった。
こっちの世界には、太陽は無いんだ、と言った。
英二は黙って聞いていた。
勿論、月も出ないんだ、と言うと、
英二は「なんか淋しいね」と言った。
寂しい。
確かにそうかもしれない。
太陽が無くとも、ここは明るいし温かいし。
しかし、月が出ない夜というのは、
何か心淋しいものだ。
英二はご不満なのか、口を突き出していた。
「月が出ないのか〜」
「ん、何かあるのか?」
英二は一瞬固まったけど、笑顔になると俺に抱き付いてきた。
「ま、大石と一緒ならいいや」
そう言って微笑む。
無邪気な笑顔。
俺の大好きな、英二の表情だ。
「英二、大好きだよ」
「大石…オレも」
一つ、キスを落とした。
触れるだけの軽いキス。
久しぶりの感触が嬉しくて、
もう一度唇を押し付けた。
幸せで、幸せで。
どれくらいそうしていただろうか。
時間も分からなくなるほど、そうしていた。
そのまま、お互いの身体を愛で合って。
静かな快楽へと身を進めていった。
「オオ、イシ…」
「エイジ…大好きだよ」
「オレ、も…っ!」
久しぶりに重ねた身体は、
いつもより熱くて、優しかった。
「オレ…本当に幸せだ」
「俺もだよ」
腕の中の存在は、本当に小さくて小さくて、
今にも風に飛ばされてしまいそうだけど。
だけど、俺に幸せを与えてくれる、
大きな大きな存在だと思った。
二人だったら、いつまでも。
二人だったら、どこまでも。
幸せを、追い続けていけるような気がするんだ。
「静かだね…」
「うん」
月が出ない夜は、とてもひっそりとしているように感じられた。
その静寂の中で探していくのは、
たった一つの幸せだけ。
moonlight is for ever...
小説一覧へ→
大石編終了!
これで、一応全作完結ということになります。
…いやー、長かった。(滝汗)
でも書いてて楽しかったです。このシリーズは。
最後の方は少し急いだ感じになってしまったかな、
という気もしますが。
最終的に、この二人は幸せになってもらわにゃ困るのです。
どこまでも大菊はラブラブ、という話でした。(ぇ
2003/04/14