* 大稲結婚編〜前編〜(仮) *
「大石はといつ結婚すんの?」
中ジョッキに入ったビールを飲み干した英二は
「なんか飲み物頼む?」と聞くときさながらのテンションでそう聞いてきた。
お陰で言葉の意味を理解するのに時間を要した。
俺が。と。いつ結婚するのかって…!?
「そ、そんなのわかるわけないだろう!?」
「えーそろそろ考え始めてたりしないの?だって付き合って10年以上経つでしょ?」
そう。
今年の4月で、俺とは付き合って11周年を迎えた。
その11年の内に日本とドイツという超遠距離恋愛を4年間挟むとはいえ、
その間も付き合いは続いていたわけだし
頻繁に会えるような状態になってからも7年という時が経っている。
しかし、結婚となるとまた話は別だった。
俺たちの間にそのような話が具体的に出てきたことはまだない。
「そろそろ…って言ったって、は社会人になったばかりだし、
俺だってまだ研修医だし…」
「別に関係ないじゃんそんなの」
「関係あるだろう。結婚をするっていうのは家庭を持つことになるということだ。
お互いの人生を左右するものだし金銭的にも精神的にも
責任が持てるようになってから…」
「あ、すみません生1つ追加で!大石は?」
「……生2つで」
俺が話している最中にも関わらず、
通りがかった店員さんを見かけた英二は陽気に追加注文をした。
俺のグラスも空になっていたから頼むことにした。
店員さんは、空いたグラスやお皿を下げてくれて一気に机が広くなった。
特に、英二が飲み干した空いたグラスが多かったように思う。
「英二、飲みすぎじゃないか?何杯目だ?」
「そっちこそ、大石の割には結構飲んでない?3杯目?」
「…俺のことはいいんだよ」
「じゃあ俺だっていくら飲んだっていいじゃん。あ、でも割り勘だかんね」
話しているうちに届いたビールを受け取るなり一口で半分近く飲み込む英二。
悔しくなって、俺も勢いをつけて大きな一口を飲んだ。
* *
……頭が痛い。
吐き気がする…というほどではないが、微かに気持ちが悪い。
ここは、今は。
「あ、大石起きた?」
水飲んどけよ、と英二は水の入ったグラスを顎でしゃくって見せた。
そして自分はジョッキから一口ビールを飲むと、また視線をスマホに戻した。
この居酒屋で英二と飲んでいた。それは間違いない。
どうやら机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。
…どれくらい?
いつ寝てしまったのか、記憶がない。
「今、何時?」
「んっとね、もーすぐ10時くらい」
「10時…」
店に入ったのは7時だ。8時過ぎまでは記憶がある。
いつも通り現状報告やくだらない雑談なんかをしていたのが、
英二が、結婚について聞いてきて……そのあたりから記憶がない。
「ごめん、俺いつから寝てた?迷惑掛けなかったか」
「寝てたのは1時間くらいー。ゆうほど迷惑掛かってないから大丈夫。
てかおもしろかった」
そう言って英二は笑った。
記憶がないというのは、怖いものだ。
なんとなく嫌な予感のようなものは感じるものの、
何に対して謝罪をすればいいのかもわからない。
「飲み直すって感じじゃないよね?今日はもう帰る?」
「ああ、そうさせてもらうよ。ごめんな」
「いーっていーって!また飲もー」
お会計をお願いして、半分ずつ支払った。
明らかに俺のほうが飲んでいる量は少ないのに…というのは、
迷惑料ということにしておこう。
お店を出ると英二は「飲んだ飲んだー!」と満足そうに伸びをした。
そして二人で駅に向かって歩き始める。
一歩ごとに頭がガンガンと響く。
俺の歩く速度が遅いことを察した英二も速度を緩めて横に着いた。
記憶があるのは8時過ぎまで。1時間くらい寝て、気付いたのが10時近く。
俺の記憶がない空白の時間が1時間弱ほどある。
「ごめん、英二。俺、途中から記憶がないんだけど」
「だろうね」
「え?」
「大石の目が座り始めたときは大体記憶ないから」
そう。
俺はテニス部の集まりでも何回かお酒によって記憶を失うような失態を犯していた。
でもお陰でもう飲めるお酒の量の限界がわかったので
自分でも気をつけていたし周りに飲まされるようなこともないのだけれど。
今日は久しぶりに、やってしまったな…。
「……俺、何か変なこと言ってなかったか?」
「んー?サイコロステーキの焼き加減についてキレ出して
店員さんに文句つけようとし出したときが一番焦った」
あ、オレが止めたから実際は言ってないよ?
と英二はフォローをしてくれた。
「ごめん、本当に…」
「いーってことよ!……それよりさ」
神妙な面持ちで英二は俺の顔を横から覗き込んできた。
「大石、一回とゆっくり話してみなよ」
それはつまり、結婚について…ということだろう。
記憶のない間、その話題について何かを言及したのか。
「俺、のことも何か言ってたか?」
「んー……ナイショ」
「英二!」
「だから、自分の胸に手を当てて考えてみろって言ってんの!
んで、とちゃんと話すること。いいな?」
話しているうちに駅に着いて別れて、考え事をしながら家に辿り着いた。
このまま寝てしまっては明日に響くな、と思い
湯を沸かしてインスタントのしじみ汁を用意した。
一口啜ると、体中に染み渡っていくようだった。
ゆっくりと飲み干しながら、考える。
俺は、について、なんと語ったのだろう。
は本当に素敵な女性だ。
いつでも元気な笑顔を見せて、周りも明るくすることができる。
俺の悪い面も受け止めてくれる。
これまで10年と少し、色々な体験を共有してきた。
「大石、一人しか女知らねぇの?勿体ねー!」なんて言われたこともあった。
だけど俺はそうは思っていない。
一人だけで、俺には勿体ないくらいの存在だから。
結婚。
いつかするなら相手はしか思っていないと思っている。
だけど、それは今ではない気もしている。
さっき英二に話したように、
まだその責任を持てる存在ではないと自分自身で感じているから。
……本当にそれだけだろうか?
今、理性が働いている間はさまざまなしがらみもあるこの話題、
記憶を失ってしまうほどに酔っていた俺は、
無意識下でなんと喋っていたのだろう……。
『一回とゆっくり話してみなよ』
先程英二に掛けられた言葉を振り返る。
と話せば、何かわかると言うのだろうか。
**
「シュウ、お待たせ〜!」
手を振りながら小走りで近づいてくる。
となると今丁度12時ということか、とちらりと時計を確認すると11:59だった。
本当に毎度見事だなぁと思う。
は待ち合わせに遅れてくることはまずない。
とはいっても、早めに来ることもない。
いつもまさにオンタイム。
だから、待ち合わせにはついつい早めに着いてしまう俺も
との待ち合わせでは15分程度早めに来るに留まっている。
「シュウもギリギリに来ていいのに。てかたまには遅れてみてよ」
いつだったか、笑いながらそう言われたことがあった。
「早めに来ないと落ち着かないんだよ。わかってるだろ?こそ走らなくていいよ」
そう返す俺に対して、
「もうシュウが見えてるのに歩くなんて逆に落ち着かないよ」
そう言って、やはりは笑った。
そんな関係も、かれこれ11年。
今日も俺たちは変わらない。
「何食べるー?」
「そうだな。この前は和食だったっけ」
「そーそー!定食めちゃめちゃおいしかったよねー!
あ、そだこの前ね、この近くにおいしいスペイン料理教えてもらったんだ」
「じゃあ、そこ行くか?」
「シュウが良ければ」
俺が頷いて同意すると、こっちー、と指差しながらは歩き始める。
俺もそれに続いて歩き出す。
しかしは足を止めて、何かと思うと
俺の手を取ってにこりと笑った。
俺も笑い返して、手を繋いだままレストランへ向かった。
店内には少し明るさを抑えた照明が灯っていて、
外の喧騒から離れて落ち着ける雰囲気だった。
手書きのように見えるフォントで書かれたメニューには温かみも感じられ、
店員さんの対応も至極丁寧だった。
料理の注文を終えて、雑談を開始する。
「いいところだな」
「でしょでしょ!先輩が私と同期2人誘ってくれて来たんだ。
でね、先輩が3人分全額奢ってくれたんだよー超太っ腹だよね!」
はそう言って楽しそうに笑った。
話を聞きながら、俺は勝手な想像を始める。
もしかしたらその先輩は元々奢るつもりはなかったのに、
囃し立てられていい気分になったまま
いつのまにか全て支払う展開に仕立て上げられたのではないだろうか…。
いや、あくまで俺の勝手な想像なのだが。
なんとなく、には奢りたくなる。
そういう生き物…いや、そういう生き方をする人物なのだ。という人間は。
俺は「彼氏」という立場であってに奢ることは度々あるが、
「彼氏だから奢る」ではなく、「一緒に居ると奢りたくなってしまう」のだ。
何故か。
しかも、奢られたいとか、誘ってくれた人を立てたいとか、
そういう意図は全く無いのだ。
単に喜んでいるのだ。
11年も一緒にいればさすがにそれはわかる。
「お待たせ致しました」
「わー、おいしそう!」
届いた料理にはキラリと目を輝かせ、
店員さんもメガネの下で嬉しそうに目を細めてお皿を置いた。
いただきますと両手を合わせ、一口目にかぶりつく。
「おいし〜〜〜!!!」
食べ始めるなり、厨房まで届くのではという勢いでは大喜びを始めた。
「これめっっちゃくちゃおいしいよ!
ソースが絶妙過ぎるし、肉柔らかっ!ヤバ!!」
「良かったな」
「これ選んで大正解だったー!シュウのもおいしそうだけどね」
「一切れ食べるか?」
「え?いいの嬉しい!わーなんかせびったみたいになっちゃったね!
シュウも良かったら私の食べて〜」
そう言って、お互いが頼んだものをシェアし合った。
確かに、が頼んだものもすごくおいしいと純粋に思った。
しかし俺にはほどその喜びをうまく表現することはできず、
「確かにおいしいな」と言葉で伝えると「でしょ!」とは満面の笑みを返してきた。
「先輩にもいいお店教えてくれてありがとうございましたってお礼言っとかないと。
別メニューも美味しかったですって伝えよっと!」
誘った側としてはこれほど嬉しいことはないだろう。
処世術というのだろうか。
しかしこれを天然でやっている。
の周りには人が耐えない理由がよくわかる。
楽しく会話もしながらの食事は、より一層おいしく感じられた。
レストランを出て、俺たちは休日の街を目的なく徘徊する。
話題となっている映画の大きな看板が目に入り、
どちらからともなく自然と歩くペースを落として足を止めた。
「映画でも見るか」
「いいね!一緒に映画久しぶり〜」
一緒に映画、ね。
「話題作でいうとこのへんか」
「あ、私これはこの前見た!公開日に見たくって有休使っちゃった!」
「誰かと来たのか?」
「一人だよ!あ、シュウも見たかった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
一人で映画には抵抗がある人もあると聞いたことがあった。
特に女性にそういう人は多い印象だが、は気にならないようだ。
人に囲まれていることが多いし、
本人も人といるのが好きだという。
だけど、一人も苦ではないらしい。
俺自身、を見ていて自立していて立派だなと感じることは確かに多い。
看板を見比べながら観る映画を決めてチケットを買い、
上映時間までの暇を潰しているとは何気なく話し始めた。
「そうだ、シュウ。私、再来月ほとんど日本にいないや」
その口ぶりと合わない報告に胸がドキリとした。
海外へ引っ越すと急に聞かされた十年以上昔の心境を思い出した。
しかし今は、再来月、と言った。
引っ越しというわけではなさそうだが。
「どういうことだ?」
「海外出張決まった!3週間くらい!」
はそういって指を3本立てた手を伸ばしてきた。
表情から察するに、寂しい、という話ではなさそうだ。
それもそうだ。
4年の遠距離恋愛を経ているのだ、俺たちは。
今になって3週間くらい。
頭ではそうやって考えられるのに、
何故だろう。胸がザワザワする。
嫌な感じだ。
「そうなのか。頑張れよ」
感じてしまった“嫌な感じ”を悟られないように笑顔を向けた。
からも笑顔が返ってきたので、ひとまず安心した。
時間が来て映画を見て、
カフェで感想を語り合って、
散歩をして小腹が空いてきた頃にダイニングバーに入った。
と一緒に居て話題に困ることはあまりない。
はくるくると表情を変えながら色々な話をしてくれる。
しかし一方的に語り続けるわけでもなく、
こちらの話も興味を持ってしっかり聞いてくれていることが伺える。
二人が飲み物に手を伸ばす瞬間が揃って、一瞬沈黙が生まれた。
その間があった後、グラスを置いたは思いがけないことを口にする。
「違ったらごめん。シュウ、今日ちょっと元気ない?」
見上げてくる表情は不安げだった。
「…どうして?」
「やー、会ったときからずっと。なんとなく。
なんとなくだから気のせいだったら許して〜」
そこまで言って、おつまみをパクパクと食べ始める。
この、が食べるのをやめるまでは
「何か言いたければ言って、ないならスルーして」の間だ。
本当にには勝てない。
天真爛漫で、己の道を行くようで、周囲の変化によく気付く。
そしてそれは変化に敏感だからというより、
自分を取り巻く人間が大好きだからなのだ。
大好きな人たちのことだから一生懸命に考えている。
そして、“気を遣わない”という気の遣い方ができる。
それにどれだけ救われてきただろう。
。
本当に、君は素晴らしい人だ。
君ほど素晴らしい人には、これから先に出会うこともきっとないだろう。
「」
「う?」
飲み物を口に含んだは間抜けな声を出した。
しかし今の俺はそのひょうきんな態度に釣られることはない。
これまでは良かったんだ。
一緒に居ることさえできれば幸せだった。いや、
離れていても幸せだった。
だけど、“これから”を考えると。
「俺、少し前から考えていることがあって」
俺の表情を見て何か大事な話だと理解したのか、
はグラスを下ろすと俺の方を体ごと向いた。
「は、いつかは結婚して子どもを産んで
幸せな家庭を築くのが夢だって言ってたよな」
「う……うん」
俺の言葉に、の瞳は期待に揺れたように見えた。
付き合って11年。
関係は良好。
お互い社会人になったタイミング。
普通ならば“何か”を期待する場面だろう。
だけど俺は、しかめた眉を直せない。
「そこにいるのは、俺じゃないんじゃないかな」
「……え」
の表情が一変する。
驚きより憎悪が勝るような、そんな表情。
「はきっと俺がいなくても幸せな人生を過ごせると思う」
それ以上の言葉が出てこない。
俺だって言いたくない。
「別れよう」なんて。
黙り込む俺の前で、の目が潤む。
「シュウ…?何言ってるの、やめてよ」
まだ決定的な言葉は発していないのに、さすが長年の付き合いともいうべきか
嫌な予感を察したようには俺の服を掴んだ。
「……ウソでしょ?」
の両目から、みるみる大粒の雫が溢れ出した。
まばたきをするごとに押し出されたそれは机にポタポタと垂れた。
は、よく笑う子であり、よく泣く子だ。
その涙だって何回も見てきた。
だけど、慰めたい気持ちになれないのは初めてだった。
泣かないでくれ。
これ以上俺を喋りにくくさせるな。
「やめてよシュウ、さすがに笑えないよ」
「……俺は本気だ」
「なんで!!」
声を張り上げたは立ち上がった。
他の席からも注目の視線が注がれてくるのを感じた。
落ち着け、座れ、と諭した。
「なんでそうなるの?私、シュウのことを好きな気持ちは昔から一回も変わらないよ?
シュウだって、私のこと好きだって言ってくれるじゃん!」
「のことは、ずっと好きだよ」
「じゃあなんで…」
喉が詰まったみたいに苦しかった。
だけど、このまま続けることもできない。
いつかこの結末を迎えるのならば、後になればなるほど苦しくなる。
「ごめん……君と結婚というゴールを想像することがどうしてもできない」
「……ハ?」
の表情が、見たことのない憎悪を含んだような顔になった。
様々な表情を見てきたが、これは初めて見たかもしれない。
「これからもずっと一緒に居たいって、前に言ってくれたじゃん」
「その気持ちは嘘じゃない。ただ、結婚ということを想像できなくなってしまったんだ。
結婚したいんだったらそんな相手を探したほうがいい」
「……勝手すぎるよ。私たちの今までは、11年間はなんだったの?」
「ごめん」
その三文字で、会話を強制的に打ち切った。
は眉を顰めて口を開けたまま固まっていた。
仕事は忙しい。
結婚だけが全てじゃないよなって離婚した先輩がいってた。
こんな気持ちで結婚なんてできるはずがない。
は望んでくれる人と結婚した方が幸せなのでは?
それに、何故だろう。
いつも隣に居るのに。
ずっとそばに居たはずなのに。
何故か、君がこんなにも遠い。
「今のままでいいんだったら、ずっと一緒にいたいと思っている。
君はそれほどに素敵で特別な人だ。
だけど……一歩先の未来が想像できないんだ」
俺の言葉に、は頬を引きつらせる。
涙を目一杯に溜めた瞳で震えた声を出す。
「その、君って呼び方…やめてよ」
「ごめん、…………さん」
「ヤダァァァ!」
イヤだ、
別れたくない、
シュウが好き…
胸の中ではそう繰り返し続けた。
だけど俺にはその背中を抱き留めることはできなかった。
と別れた。
11年間付き合った彼女と。
**
「ウソだろ!?」
「本当だよ」
と別れてから約一週間後、俺はまた英二と飲むことになった。
大衆居酒屋のカウンターで俺たちは横に並んで座り、
初めに頼んだ食べ物があらかた食べ終わる頃のタイミングで
俺は英二に「と別れることになった」と伝えた。
「オレ、そんなつもりじゃ…」
その報告を聞いた英二は明らかに狼狽していた。
中ジョッキを見つめる目元は震えているようにも見えた。
英二は、一番近い位置でずっと俺たち二人の仲を見守ってくれていたもんな。
「なあ英二。この前二人で飲んだとき…記憶を失っている間、
俺はなんて言っていたんだ」
それだけは英二に聞いてみたかったんだ。
記憶のない1時間弱。
外聞も、しがらみも、
何も気にしていなかったであろうその時の俺は
のことをどのように語ったのだろう。
英二は大きな目一杯に涙を溜めて話し始めた。
「のことが…好きだって。誰より好きだって。
何より大切で、世界で一番幸せになってほしいって。
『俺はその相手にふさわしくない』って何回も言うから、オレ、
そんなことないよ、には大石しかいないじゃん、って、その度に伝えて…」
目を合わせられずに落とした視界に、
ぎゅっと、英二が拳に力を込めるのが見えた
「大石、最後に、
『のウェディングドレス姿はさぞかし綺麗なんだろうな』
って言って、寝たんだぞ。
オレてっきり、大石は、本心ではと早く結婚したいのに
色んなこと考えすぎて一歩が踏み出せてないとか、そんなことだと思って…」
言葉が途切れて、
その表情を盗み見る。
英二は俯いていた。
「それがなんでこうなってるんだよ……ッ」
手のひらで目元を覆う姿が見えた。
俺は大きくため息。
これは、落胆ゆえではない。
これは、安堵によるものだ。
「良かった」
「何が!」
「言葉は何一つ嘘じゃなかったから」
「…は?」
無意識下でも俺はそんなにのことを想えていた。
それが確認できて嬉しかった。誇らしい気持ちだ。
「俺は、のことが一生好きだと思うし、幸せになってほしい。
隣には居られなくても、この世界のどこかで、
がウェディングドレスを着て笑っている姿を想像したら」
想像、できた。
「俺はそれだけで胸が一杯だよ」
純白のウェディングドレスを身にまとったは
その裾を持ち上げるように摘んで、花畑の中を走って、
振り返ると大きな笑顔を見せた。
その景色は、眩しすぎて白く霞んでいた。
「……勝手すぎるだろ」
「ごめん」
「オレに謝っても意味ねーよ」
「そうだな」
かつかつかつ、と爪で机を叩く音がした。
これは、英二が考え事をしていて、少しイラついているサイン。
その音が止むと同時に英二は喋りだした。
「大石。オレ、今彼女居ないんだ。丁度」
「……ああ、そう言ってたな」
「色んな子と付き合ってきて、みんないい子だったけどさ、
オレは結局初恋の子がずっと一番好きだったんだ」
机の一点を見つめたまま話を聞いていたけれど、
その言葉を聞いてはっと顔を上げた。
横を見ると、英二はまっすぐオレの目を覗き込んでいた。
「言ったよな、オレ。中学んとき本当はのことが好きだったって」
言ってた。
すっかり忘れていた。
というか、自分との関係があまりに安定して長く続いたせいで
恋破れる形になっていた英二の想いが
その裏でずっと存在し続けていただなんて、予測すら。
「後悔すんなよ」
英二はそう残して、明らかに半額よりも多いお金を机に置いて店を出ていった。
今日は英二も俺も同じだけしか飲んでいないのに。
急用ができたとき「ごめん大石ツケといて!」と何も払わず帰っていた英二が。
「後悔すんなよ、か」
ぽそりと独り言を漏らし、お金を拾い上げた。
これからどんなことが起きるか想像をすると無意識に手に力がこもり、
しわくちゃになったお札を焦って広げた。
後悔、なんて。
……するに決まってるだろ。
過渡期を迎える大稲!(笑)
1月中旬に99%完成してたけど上げるなら今日、と思って仕上げました。
自分とサイトの誕生日だから好きかってやらせてもらうさw
普通の大石夢と思って読むと火傷するぜ!w
大稲シリーズ、いつか結婚と向き合う編も書きたいと思ってたけど
「現実込み」を謳っている以上
そのときを迎えないと仕上げられないなと思っていたので、
ようやく辿り着くことができました(笑)
書き始めたときのプランよりも遅い仕上がりに…(大苦笑)
ここからもうちょっとぐちゃっとさせます。
だって現実込みなので(←)
うるへー私は大×稲←菊が大好きなんだよ(笑)
続きが完成したら真面目にタイトルつけます。
2021/01/04-2024/05/06