* 君がいつまでも幸せでありますように *
大切な女の子が居る。
なんて大層なことをいうと
あたかも俺とその子が特別な関係にあるように感じられるが、
そのようなことは事実としてない。
ただ、偶然家が近所で、
生まれた年も日付も近くて、
関わってきた年月と回数が多いだけの関係だ。
親同士も交流があって、
公園デビューは同じ公園だった。
一緒に砂遊びをして鬼ごっこをして
二人で泥だらけになっている写真がアルバムにも残っている。
「しゅーいちろうくん」
「ちゃん」
そう呼び合って居た俺たちだったが、
おそらく小学校に入ってからいつの間にか呼び捨てに変わっていた。
高学年になった頃だったろうか、
名前で呼び合っていることを気恥ずかしく感じて
一度だけ「」と呼んだことがあった。
直後に「何それ秀一郎のくせにキモチワル!」と言われて
周りの奴らにも大笑いされて
結局今でも名前で呼び続けている。
俺は私立の中学を受験して
地元の公立に入ったとは少し疎遠になった時期もあった。
それまでほとんど毎日顔を合わせていたのに
稀にお使いを頼まれて物の受け渡しをしにお互いの家に行ったが
必ず顔を合わせることもなく、
月に一回道ですれ違う程度になった。
そのような生活に変わってから、おや、と思うようになったのが、
がえらく小さく見えるようになったことだ。
小学生の間はほぼ一緒、どちらかというと俺が見上げていた目線が
会うたびに低くなっていくようだった。
その頃からが小さく、
守るべき存在として見えてきた。
体の大きさだけではない。
胸が膨らんで、
長く伸びた髪を耳にかけるときにふわりと良い香りがして、
不覚にもドキリとしたことを憶えている。
俺は男で、は女の子だったのだ。
だけどが俺の恋愛対象となったかというと、そんなことはなかった。
俺はどちらかというとおしとやかなタイプに惹かれることが多いようで、
いつでも元気に溢れたは魅力的な存在だけれど
そういう目でを意識することはついになかった。
寧ろ、たまに呼び出されては恋愛相談をされたくらいだ。
はで、
「好きな人の授業中の寝顔が可愛い!」だなんて
俺にとっては信じられないようなヤツがタイプのようだった。
相談に乗ってくれと頼んできたのはの方なのに
一方的では不公平だと押し切られて
俺が気になっている子の話をさせられたこともあった。
お互いの恋愛相談に乗り合って、それが功を奏したのか
付き合えることになったと笑うはいつも楽しそうだった。
俺の方は…残念ながらのアドバイスが活きたことは身に覚えがない。
たまにすれ違ったり
極たまに落ち合ったり
そんな距離感に慣れた頃、
が俺の通う青春学園に高校から進学してきたときは驚いた。
時間が合ったときに一緒に登校する姿を目撃されて
クラスメイトたちに「彼女なのか」「好きなのか」と
囃し立てられることもしばしばあったが
「そんなんじゃない。家が近くて幼馴染なんだ」とその都度説明した。
必死の説明も虚しく、噂が途絶えることは3年間ついぞなかった気がする。
に至っては他所に彼氏ができたのに、
いい迷惑だと何故か俺が怒られたこともあった。
大学は逆に俺が外部を受験して、またたまにしか合わない関係に戻った。
学校に行って帰るだけで二人の生活リズムが
大きく変わらなかった中学の頃と違って、
たまたま道ですれ違うということは年に数回あるかないかとなった。
だけどからはたまに連絡が来て、
また相談に乗れだの呼び出されることもあって、
二人だけで飲みに行ってはへべれけ状態になったを
家まで送り届けたことも一度や二度ではない。
俺の肘あたりの袖を掴んで大きく口を開けて笑いながら蛇行して歩く姿は
見ていてハラハラしたけれど、が楽しそうなのは、嬉しかった。
4年制の大学を卒業しては一足先に社会人になったが、
関わり方は大学の頃と大差なかった。
たまに連絡がきて、極たまに直接会うことになって。
ここまで来たら、こんな関係が一生続くのではないか。
そんな風に思っていた頃だった。
『秀一郎、私、新しい彼氏できたんだ』
は笑顔でそう報告してきた。
今まで何度もあったことだった。
はその都度、嬉しそうに報告してきた。
そのお付き合いの継続期間は俺が知る限りで最も長くて一年もなくて、
その分、割と頻繁に受けてきた報告だった。
だけど何故か、初めて胸がざわついた。
何故か。
の笑顔が 嬉しそう ではなく、
幸せそう に見えたのかもしれない。
別れた報告はなく、
新しい相手ができた報告もないまま、
2年が経過してから
「秀一郎、私、結婚することになった!」
とそれは良い笑顔で報告してきた。
心からの笑顔が生まれた。
「おめでとう」と伝えながら
涙が目の端に浮かんだのを見られて
いつもみたいに肩を叩きながら笑われた。
そこから更に一年。
は今日、結婚する。
今までとは関係性が変わるだろうか。
会う頻度は減るであろう。
二人きりで会うのは気が引ける。
でも、何かの拍子に出会っては
今までと変わらぬ距離感で話せる、
そんな気がするのは今まで完全に疎遠になった経験がないからなのか。
だけど、完全に繋がりが途切れることはない。
そんな確信めいた自信があるんだ。
ちなみに俺には今、とは別で、
誰よりも大切な女の子が居る。
ここ暫くはの話にばかり付き合わされてきたんだ。
の生活が落ち着いてきた頃に、
今度は俺の惚気話にでも付き合ってもらおうと思う。
そうはいってものことだからきっと
気付いたら向こうの話ばかりになっている気もして、
それが惚気であろうと愚痴であろうと
俺は笑顔で聞いてあげようと思っている。
最後の悪あがきに婚姻届出しに向かう電車の中で書いた笑
『せめて一番近くでその道程を見届けたい』と
『Bachelorette's Eve』のアザーサイドです。
夢主目線での切なげハピエンストーリーを
大石目線で切なさ増し増しにするのが私の趣味である笑
大石と幼馴染みで大切に想われたい人生だった。
せめて大石と関わりたい人生だった。
これからもそれは変わらないでしょうという
未来の予想であり誓いでもある記念の作でした。笑
2024/07/23