| 「ゲーム菊丸、6−4!」 ハァ、ハァ、と荒げる息を飲み込んで、ふぅと深呼吸。振り返ってチームのみんなにガッツポーズ。ベースラインから歩み寄ってきた対戦相手と握手を交わし、大きな拍手を受けながらベンチに戻った。 「危なげなかったじゃない、英二」 「いんやー結構しんどかったよ。5オールなってたらヤバかったかも」 受け取ったタオルでがしがしと顔の汗を拭う。それを肩に掛けて、目の前で微笑んでいる人物の肩をポンと叩いてみせた。 「んじゃ頼んだよ、大将」 「任せて」 ニコリと笑って、不二はコートへ向かっていった。ベンチに腰掛けて前を見ると、さっきまで自分もそこに居たはずのコートがやたらと遠く見えた。 その理由はわかる気がする。不二はきっと、もっと遠くを見ている。もっともっと遠くに居るアイツの背中がきっと見えている。 (オレには、遠すぎるな) 今日は天気が良すぎるほどの快晴で、日差しは目に刺さってくるようだった。首に掛けていたタオルを日除けにするように頭の上に乗せた。 クーラーボックスから一つ、ボトルを拾い上げる。それだけのことでちょっと寂しくなる……なんてことを懲りずに何ヵ月も続けている。アイツなら何も言わずと二人分取ってくれただろうなとか、誰かが両手を伸ばして一本ずつ手渡してくれることもあったな、とか。 (シングルスってしんどいや) もう一度汗を拭ってコートに目線を戻すと、早くもワンゲーム目を終えてコートチェンジするところだった。これは苦戦することなく準決勝進出かな、いや油断は良くないって誰かさんが言ってたっけ、なんて考えているうちに6−0であっさりと試合は終了した。 青学は順調に準決勝進出と同時に関東大会出場を決めた。帰り道は不二と二人になった。こうしていると、去年同じクラスだったときのことを思い出すみたいだ。高校に入ってからも新しい友達はたくさん増えたけど、やっぱり中学からの友達は特別っていうか、“気の置けない仲間”ってやつだなーと思う。 「不二の相手、作戦上の大将ってやつだったね」 「たぶんね」 「手加減しないのは不二らしいけど、かといって手の内を全部見せたわけでもないでしょ?」 「ふふっ」 「怖いよなあ」 オレが頭の後ろで腕を組んで仰け反ると「だからさ」と不二は会話を続けてきた。 「英二の相手が一番強かったと思うよ。お疲れ様」 「サンキュー」 不二が、オレの表情を伺ってきているな、というのはわかった。穏やかに微笑んでいるけど、何か言いたげな目だ。不二は何考えてるか読みづらいとかよく言われてるけど、これだけ長いこと一緒にいればさすがにわかるようになった。 案の定、不二は聞いてきた。そして様子を伺ってきた理由もわかった。それは、オレにとっては答えづらい質問だった。 「もう、すっかりシングルスには慣れた?」 「…………」 即答はできなかった。考えてみても、なんと答えるのが正解かわからなかった。自分の気持ちがわからなかった。わからないなりの、正直な考えを伝えることにした。 「慣れた、と思うし、一生慣れないかもとも思う」 横で不二が大きく目を見開いた気配がしたけど、そっちを見ると笑顔だった。どうして? とも、そうなんだ とも言わずに、不二はゆっくりと頷いている。ああ、まだオレ、心配されてるんだなってそれでわかってしまった。 「慣れないとこもあるけど、楽しいよ」 「そっか。それは良かった」 不二は優しい。だけど、ちょっとイジワルだ。面白がってわざと茶化すようなことを言うこともある。でもその茶化しは不二の優しさで出来てて、こうやって優しくされているときほど、もっといじってくれたっていいのに、と思ってしまう。 だけど気を遣われるのもわかる。高校に上がってからすぐのオレは、今振り返ってみてもなかなかの荒れ様だったと自分ですら思う。試合ではうまく勝てない、チームメイトとうまく行かない、練習では空回りばかりの悪循環だった。その頃のことが頭に蘇った。 * * * 高校テニス部の練習は、中学の頃と負けず劣らずハードだ。自分が高校一年として入ったらてっきり高校三年生になった大和部長がまた部長をしているものだと思い込んでいたけどそうではなかった。でもそんな“大和副部長”に、去年は度々走らされた。原因のほとんどが「どうしたんですか菊丸くん、なんだか上の空ですよ」だった。 無意識に探してしまっていた。いつも隣りにいるのが当たり前だった相棒の姿を。存在を探してぐるりと見渡せば、以心伝心したかのように目が合って、笑顔、手、声で返事をしてくれた。その当たり前がなくなって、ぽっかりと穴が空いたみたいだった。 外部入学から来た新入部員にも青学テニス部に憧れて入ってきた経験者は何人も居た。団体戦では勝ち上がれなかった各校のエース級のやつらとか。その中でもやっぱり、全国大会優勝メンバーとして内部進学してきた乾、不二、そしてオレは一目置かれる存在になっていた。 「ゴールデンペアの菊丸だろ? 中学の頃コテンパンに負けたことあるぜ。お前らは覚えてないだろうけど」 「……どーも」 「で、相方は? 大石だっけ」 その名前が耳に届いて、ピクンと眉間に力が入るのを感じた。意識していないつもりだったけど、オレの体はきっちりと過敏だった。 「大石は……テニス辞めたよ」 「マジ? 勿体ねー!」 お前が大石の何を知ってるんだ。そう頭に浮かんだけど、喉元まで出てくる前に引っ込めた。大石のことを全てわかっているわけではないのは、オレもきっと同じだ。 「じゃあダブルスの相方探してたりする? オレ、後衛だったんだ」 何の悪意もない言葉だとはわかった。だけどオレには笑い返す余裕はなかった。 「オレ、高校ではシングルスやろうと思ってんだ」 「あ、そうかよ」 体ごと視線を逸らしながら返事をする。そのまま歩き去ると、特に追っては来なかった。 とはいえ高校入学から本格的に始めたシングルス、初めはうまく行かないことも多かった。 中学で全国制覇したメンバーは今のレギュラーよりも強い、という前評判で入ってきたオレたち。だけど、試合でオレは思うように勝てなかった。ダブルスで経験を積みながらもシングルスメインでやってきた不二や乾とは差があった。そうでなくともランキング戦で二人に勝てたことは元々ほとんどなかった。オレって、一人だとこんなもんなんだって改めて自覚した。 中学の公式試合でシングルスで出て勝利したこともあった。あのときは何故勝てたのだろうと考えると、もっと心を強く持てていた気がする。じゃあ、なんでそうだったのだろう。 大石とダブルスコンビを組んでいることを前提として、また大石と試合をするために頑張るのと、これからずっと一人で試合をしていくという心持ちで試合をするのでは、何かが違うみたいだった。今のボールはダブルスだったらカバーし合えたのにとか、この相手にはこんなコンビネーションが有効だろうとか。思いついてもしょうもないことばかりが頭に浮かんできては邪魔をしていた。どんなに頑張ったってこの先に大石とのテニスは待ってないのに。そう考えると気持ちが弱くなっていってしまいそうだった。 大石は違う道を選んだ。「今」を精一杯生きることよりも、「将来」のために今を頑張る生き方を選んだんだ。 大石がテニスを辞める判断をしたことを、裏切られたように感じたこともあった。だけど今はそう思ってはいない。何を頑張るか、そのフィールドが変わっただけで、頑張っていることに変わりはない。外部受験までして、大石は今頃勉強を頑張っている。そう考えることがオレのモチベーションだった。 オレにとっては勉強を一生懸命やるってとてもとても大変なことだから、それに比べたらこれは得意な部類の努力だ。テニスの練習は中学の頃と同じくらいか、もしかしたらそれ以上に頑張っている。体重は増えにくい方だけど、中学の頃と比べたら筋力もだいぶ付いた。乾にもらったトレーニングメニューを真面目にこなしているのも大きいと思う。あの頃よりも上手く、強く変われているはず。 なのにどう考えても、あの頃の“無敵感”には叶わない。 だから、今日の試合で勝てて、オレは正直ホッとしていた。嬉しさよりも安堵が先に湧き上がってきていて、オレはどれだけ臆病になってしまったのだろうと考えた。 ** 時は流れて関東大会初戦。空はすっきりと晴れ渡っている。 関東大会ともなると、都大会からぐっとレベルが上がる。都大会だって楽な試合ばかりではなかったけれど、ここ数年関東大会を突破できていない青学にとっては、これからは挑戦者の立場だ。全国制覇した代だからと期待は高いけれど、メンバーの大半は入れ替わっている。 残された者は辛いなぁと大きく伸びをして、それでもやるっきゃないと割り切る――頭では出来ているのに、どこかにわだかまりが残っているようなそんな感覚がある。 (ダメだ、こんなんじゃ。切り替え!) 今日オレが任された試合はシングルス3。ここまでにダブルスを二試合落として後がない。パンパンと顔を叩いて気合を入れて、コートに足を踏み入れた。 コートの中心まで歩み寄って、相手選手と握手……をするために手を持ち上げて、自分で驚いた。 (……震えてる) 初めてだった。いや、過去にはそういうこともあっただろうか。少なくとも覚えている限りの試合の記憶を遡っても、試合開始前に手が震えたことはなかったように思う。試合が終わってから「見てオレ今めっちゃアドレナリン出てる!」なんて笑いながら相棒に震える手のひらを広げて見せたことがあるのは覚えているけれど。 意識してみるとドキンドキンと心臓の音は大きく鳴っていて、頭のてっぺんから足の先まで響いていた。期待による胸の高鳴りではなく、これはプレッシャーによる緊張だ、と思った。ああ、オレは今緊張しているんだ。 (深呼吸、シンコキュウ) 息を大きく吸って吐いた。それだけで意識はクリアになった。さあ、試合の始まりだ。 大丈夫。練習だって頑張ってきたんだ。“無敵”だったあの頃よりも、オレは強くなっているはずなんだ。 胸を拳でドンと叩いて、ベースラインの後ろに構えた。審判のコールを聞いてからもう一度深呼吸をして、相手コートへサーブを打ち下ろした。 ** (4−5……) 九セット目にして、初めてブレイクを許してしまった。しかも次のセットは相手有利な相手のサービスゲームだ。 ちょっち厳しい、かも。なんて気弱な自分が顔を覗かせたのをぶんぶんと頭を横に振ってかき消して、タオルで顔をゴシゴシと拭いた。汗がたくさん出ている。水分も摂らないと。 今サービスゲームを落としてしまったのは不運だけではない。実力差でいうと――正直相手の方が上だ。やはり関東大会、一筋縄では勝たせてもらえない。 もちろん諦める気はない。だけど、打開策も浮かばない。寧ろこれまでよくワンゲーム差で食らいついていると言えるかもしれない。 相手チームは青学の実力を見越してダブルス二つとシングルス3に戦力を固めている。このあとに続くのは乾と不二。オレさえ勝てればきっと勝ち上がれる……だけどオレが勝てるかどうか。この前の都大会決勝もそうだったけど、なんかオレそういう役回り多くない? こういうとき、どうしたらいいんだっけ。もしダブルスだったらどうしてたっけ。 (ねぇどうしよう、おおい――……) 心の中で途中まで呼びかけて、最後の文字を飲み込んだ。 ダメだ。オレ一人でなんとかしないと。もしダブルスだったらなんて、そんなこと考えても無意味だ。これはシングルスなんだから。一人でなんとかしないと。自分で立て直さないと。オレはこれからもずっと一人で戦っていくんだから。 (シングルスって、本当に孤独――) それでも、なんとかしなきゃいけない。これは、テニスを続けることは、シングルスプレイヤーになることは、オレ自身が選んだ道なんだから。 (やっぱ、続けるべきじゃなかったのかな、テニス) アイツとテニスはもう出来ない。そうわかった時点で、手放すべきだったのかもしれない。悩んだ末に出した結論でオレは今ここに居るけど、負けが頭を過って、気持ちが弱くなっている。 (ダメだ、こんなんじゃあ。でも、どうすればいいんだよ――……大石) 目をぎゅっと瞑ったとき、不二が「英二!」呼びかけてくる声が後方から聞こえた。はっと目を開けて後ろを振り返ると、不二は観客の歓声や応援団の掛け声に負けないように、口元に手を添えて声を張り上げていた。 「客席の後方、見てごらん!」 不二は言わなかった。何があるよとか誰が居るよとか。だけどその瞬間、オレにはわかってしまった。わかってしまったっていうか、きっとそれはオレの願望だったんだろうけど、つまりオレの願望通りのことが目の前で起きていたってわけ。 「……大石」 そこには大石が居た。大石の姿を見るのは卒業ぶりだった。知らない制服を着ていた。何かから直接駆けつけてくれたのだろうか。 大石は両手をそれぞれ口の左右に当てて、目を閉じて思いっきり叫んだ。 「英二! 頑張れ!!」 感情論とか根性論とか、みんなバカにするけどさ。 (たったこれだけで、オレは本当に頑張れちゃうんだよ……悔しいくらいに) なんだろう。頭がみるみる冴えてくる。さっきまでの思い詰まった感情が嘘みたいだ。勝つための作戦は何も浮かんじゃいないけど、体が軽くなって、早くコートに入りたい、ボールを追いかけて打ち込みたい……そんな気持ちが溢れてきた。 逸る気持ちでラケットを掴み、立ち上がったところで審判のコール。ベースラインの少し後ろに構えて、オレは冷静だった。まだ、これをラストセットになんかしてやらない。 飛んできたボールを素直に打ち返す。それと同時に前へ出る。相手はもちろんスペースに打ち込んでこようとするから横っ跳びで飛びついてやる。苦し紛れのロブなんて、後ろ向きに打ち返しちゃる。「アイツ背中に目でも付いてるのか!?」なんて観客の声を聞く余裕まであって、相手からボールが返ってくる頃にはオレはもうネットに付いていて、サイドステップで追いついて鋭角に打ち返す。ラブフィフティーン。そうだった。点ってこうやって取るんだった。 息が弾んでいる。苦しいのとは違う。次はどんなボールが来るのか楽しみで、相手がサービスの位置に着くのを待たずにレシーブの体勢になる。ラリーが始まると頭で考えるより先に体が動き出していた。 なんか急に、自由だ。このコートの中で、オレは今、自由で、なんだってできる。そんな気がしてきた。 ダブルスで勝てるようになるために、個人練もたくさんやったことを思い出す。シングルスで勝つために、二人で努力してきた日々がオレの中で活きているよ、大石。 コーナーを狙うこと。緩急を付けること。相手が苦手なコースに打ち込むこと。パートナーがカバーしてくれる領域を想像する、その代わりに、軽くなった足で自分で走り込む。たったそれだけ。たったそれだけの違いがこんなにも大きくてオレを苦しめるけど、それ以外は全部、これまで積み上げてきたものと一緒だった。 ねぇ大石、今日もテニスは楽しいよ。 『ゲームセット! ウォンバイ菊丸、7−5!』 歓声が高く上がった。切れている息を整えるように深呼吸をして、腕で額の汗を拭った。 (ありがとう、大石) 心の中で一つ礼を述べて、オレは拳を突き上げた。拍手は更に大きくなった。握手を交わした相手の手のひらは熱くってゴツゴツしていて、コイツもきっとたくさん頑張ってきたんだろうなって思った。オレは胸を張って味方に振り返った。 拍手で出迎えられてベンチに着くと、「何がとは言わないけど、さすがだな」と言うと乾はオレの肩にポンと手を置いて、コートの中へ進んでいった。 なんだよ乾。わかった風な口利いちゃってさ。 どこか悔しく感じて、乾に手を置かれていた位置に自分の手を置いた。悔しく感じてしまったのは、きっと、乾が言ってる「何がとは言わないけど」が何を指しているかがオレにはわかってしまったから。 「さすが菊丸!」 「お前やっぱすげーな!」 スタンドに戻るとそんな激励を浴びせられた。ハイタッチをして、背中を叩かれて、タオルや飲み物を渡されて。だけどオレの気持ちは、少し離れたどこかへ向かっていた。でも今の仲間よりも過去を大事に思ってる自分を認めてはいけない気がして、ギリギリ見える位置に居るであろうソイツに意識を向けないように、みんなと笑顔で会話を交わしていく。 順番に一言ずつ喋っていって、最後に不二が立っていた。 「不二、なんとか繋いだぞ!」 笑顔で手を掲げるけど、不二は腕を上げずに腰の高さで手のひらを上に向けている。まあ別にいいんだけど。低い位置にあるその手に向かって手を振り下ろしてパンと鳴らす。「途中しんどかったけどなんとかなって良かったよ〜」と試合の感想を述べ始めるオレに対し、不二は 「早く行っといで」 と微笑んだ。 ごめん。ありがと。 どっちを言うべきかわからないまま、唇にぐっと力を込めて頷いて、オレは客席後方を見上げた。 ** 息はもう整ったけど、まだ汗は引ききっていない。全身に汗を滴らせて、息を再び弾ませて、オレはスタンドの階段を駆け上がった。皆の意識は次の試合に向かっている中、一人パチパチと拍手をする男。ブレザーにネクタイに斜め掛け鞄なんて見慣れなかったけど、そこに居たのは疑う余地なく大石だった。 「お疲れ、英二」 「うんにゃ、本当にちかれた〜」 そう言って歯を見せるようにして笑ったやった。けど、あれ、オレっていつも大石の前でどんな風に笑ってたっけ。今の笑顔はわざとらしくないかなとか考えながら喋っていると、尚更ほっぺの辺りが引きつっている気がしてきた。オレ今、目ちゃんと笑ってる? 口だけ無理に笑ってるとかない? っていうか、大石はどんな顔してる? そこでようやく、大石の目を見られていないことに気が付いた。意を決して、大石の顔を見た。大石は、嬉しそうに笑っていたけど、ちょびっとだけ寂しそうでもあった。 「すごいよ。英二はシングルスでも強いんだな」 その表情が懐かしく感じて、なぜだか悔しくなった。 なんだよ大石。お前が寂しがるのはズルイよ。 「英二のプレイは無意識に人の視線を惹きつける、そんな魅力があるよ」 「……そりゃどーも」 気恥ずかしくて居づらくって、あんま興味ないみたいな返事をしてしまった。大石って、真面目な顔してクサいセリフを平気で言えちゃうんだもんな。 「だけどやっぱり、見ているより、一緒にプレイしていたいなって思ってしまうよ」 大石は微笑みながらも、切なげに眉尻を少し下げた。思わず釣られた、を通り越して、本気で泣きそうになって、オレは眉をしかめて怒ってるみたいな顔して大石の背中をドシーン!と叩いた。 「ホーント大石って自分勝手!」 「ええっ!?」 さもオレがめちゃくちゃなことを言っているかのように、心外だ、みたいな顔をして背中をさする。ズルイよ大石。自覚がないことが何よりも。 あーあ。イヤんなっちゃう。こんななのに大石のことをイヤになれない自分も。 仕方ないよね。オレは何よりも大石とするテニスが世界で一番好きだったんだからさ。 「大石」 呼びかけると、真っ直ぐに目が合った。大石の目線はいつも真っ直ぐだ。奥まで見透かされるみたいに。自分から呼びかけたくせに思わず視線を逸らしそうになったけど、目元にぐっと力を込めて寧ろ覗き返してやった。 「オレこれからも頑張るからさ、大石も頑張れよ」 「もちろん」 言葉と一緒に、拳を差し出された。ゴツンとぶつけて、笑い合った。その動作はなんだか懐かしかったけど、思い出だけじゃなくて、今もその続きなんだろうなと思った。 俺達は何があっても黄金ペアだ。その言葉は真実なのだと、改めて胸に刻み込んだ。 |