* 誕生日祝われ待ち *
同じクラスになって一ヵ月弱。
新年度を迎えたその月の最終日、どうやらクラスメイトの誕生日らしいことを
教室の後ろの自己紹介カードを全員分熟読した私は知っていた。
保健委員長の大石秀一郎くん。
あとで、おめでとうって言ってあげよう。
知ってたのかって驚くかな。
現にこれまでにも二人に同じことをしてびっくりされた。
そう思って迎えた誕生日当日……。
「「大石くん、お誕生日おめでと〜!」」
顔を見たことのない女子たちが廊下から手を振っている。
大石くんは、爽やかに、でも少し照れたふうに「ありがとう」と返した。
人気者でいらしたかー…。
委員長もやってるくらいだし、そういえばあのテニス部のレギュラーなんだっけ。
その声で今日大石くんが誕生日だと気付いたクラスメイトたちが
「おめでとう」と声を掛ける。
その一つ一つに大石くんはお礼を返している。
クラスでは私だけが憶えてたのかもしれなかったのに。
なんて他クラスの女子たちに少し恨めしい感情をぶつけてしまうけど、
あの子たちは自己紹介カードなんて見なくとも
誕生日を知ってた関係の人たちなんだろうな。
自分が特別なような気になっていた私こそ当て外れだ、
と自分の愚かな考えを反省した。
今言ったら流れに便乗した人になってしまう気がして、
「お誕生日おめでとう」を言えなかった。
別に、私は何も特別なんかじゃないのに。
**
どこか二人で話すタイミングがあったら言おう、
と思いながら放課後を迎えてしまった。
それもそのはず、私は元々大石くんと特別仲良いわけでもなんでもないのだ。
私がお誕生日おめでとうを言わなくたって彼は何一つ気にしないだろうし、
言ったとてほんの少し驚くか驚かない程度で
極端に喜ばすことができる存在でもなんでもない。
このまま言わなくてもいいか、でも……
せっかく知っちゃったし。
もう憶えちゃったし。
「大石くん」
テニスバッグを拾い上げる横顔に声を掛けた。
「お誕生日おめでとう!」
笑顔を向けて声を掛ける私と裏腹に、
大石くんはどぎまぎとしたような表情を見せる。
どうしてそれを知っているんだ、と言いたい風に。
「あ、あの自己紹介カードで見て憶えて」
「ああ、あれか!そんなにしっかり見てくれてる人も居たんだな」
大石くんは頭の後ろに手を当てて照れた表情を見せた。
「それじゃあ、さんは……」
ああ私の誕生日はね、と教えようと思ったら、
大石くんは一生懸命に壁の自己紹介カードに目を滑らせている。
そして私のものに目を当てて、柔らかく目を細めた。
「この日まで、忘れないようにしないとな」
それはつまり、私の誕生日も祝ってくれるってこと?
そのときも今みたいに優しい笑顔で?
私は元々大石くんと特別仲良いわけでも
特別な感情を抱いているわけでもなんでもなくて、
だから、4月一杯で剥がされてしまうというこの自己紹介カードが
剥がされる前にその日付を迎えたから忘れず祝うことができただけで。
だけど、もしこのカードがなくなってからの
私の誕生日を大石くんが祝ってくれたとしたら、
私は憶えてくれていたことにとても驚いて、
極端に喜んでしまうことになるかもしれない。
(聞いてないよ、そんな目をするなんて)
話し掛けた段階ではそれほど高鳴っていなかったはずの胸に気付きつつも
知らんぷりしてニッと笑って
「楽しみにしてるから」と伝えた。
たまには恋愛じゃなくて友情関係の
大石夢を書いてみたらどうだろう、
と思って書き始めたけど結局トキめいてしまった。
何故なら私(書き手)が大石にトキめいてしまっているので…。
想像できないものは書けないってやつかぁw
大石お誕生日おめでとう!
2025/04/29-30