* 久しぶりのミスド集合で *












『いつもの居酒屋集合で』

見慣れた文面がメッセージアプリに届いた。
「了解」に続けて日時の候補をいくつか送ると、
「今夜で」と、最速の日程を促す返事が返ってきた。

大学の講義を終え、指定された時間に間に合うよう地元行きの電車に乗った。
その間俺は、どのように励ましてやろう、ということを考えていた。

がこのような誘いをしてくるなんて、
理由はだいたい決まっている。

予約した席に通され到着を待った。
その待ち人は、待ち合わせ時刻ほぼ同時に姿を現した。

「久しぶりだな。といっても、半年ぶりか」
「まあ高校までほぼ毎日顔合わせてたこと考えたら久しぶりかー。
 大学入ってからもだいたい毎月のように会ってたし」

そんなことを話しながらは着席して体勢を整えた。
幼馴染であり、同じ中高に通ったは俺にとっても気の置けない大切な友人だ。
このような呼び出しは基本的には嬉しいことである。
ただ、問題は。

「今回は割と長かったんじゃないか?」
「……うるさいなぁー」

その口ぶりと涙が滲んだ瞳で、
今回の呼び出しがいつもの法則を外れていないことを確信した。

が俺を呼び出すのは、だいたい「彼氏ができた」「彼氏と別れた」の話題がメインだ。
同性のほうが話しやすそうな話題に感じるが、
にとってはそうではないらしい。

俺は完全に対象外なんだな…ということは男として虚しくもあるが、
恋愛のいざこざで大切な友人を一人失うリスクが低いと考えれば、
悪い面だけではないかもしれない。

半年ほど前、桜が咲く前でまだ寒い頃だっただろうか、
「彼氏できた!今回はマジでいい人!」と、
目をキラキラさせて報告してきたことは記憶に新しい。
過去の例は平均2ヶ月程度であったことを考えると、
今回は呼び出しのスパンが長いなと思っていたのだが。


いつも同じ。

「ミスド集合で」が最近「居酒屋集合で」に変わったくらいで。

初めては中学3年だっただろうか。

俺たちは何も変わらない。


案の定は彼氏と別れることになった経緯を愚痴混じりに語り始めた。
に同情せざるを得ないような話もあれば、どうにも引っかかる部分もあり。

「そこはさすがにの方が譲歩するべきだったんじゃないか?」
「…わかってるよー!!」

突っ伏したままは声を大きく上げた。
しばらく沈黙があって、体は机に倒したまま顔だけを上げた。
予想外なことに、はニコニコと笑っていた。

「秀、モテないでしょ」
「えっ!?」
「モテる男は、こういうときアドバイスするんじゃなくて寄り添うもんだよ」

モテる男と言われ、俺はふと不二の顔が浮かんだ。
不二だったらこういうとき、
「それは大変だったね」とか、
「僕だったらそんな酷いことはしないけどなぁ」とか。
寄り添う…なるほどな。

しかし、とびきりの笑顔で「モテない」と断定されてしまったのは心外だ。
今日はの話が中心になるだろうからこれは話題に挙がらないかもしれない、
と考えていたエピソードを切り出すことにした。

「そういえば」「だったら私が…」

「「あ」」

言葉が被ってしまった。
思わず上げた声まで重なった。

「ごめん、もう一回いいかな」
「や、大したことじゃないから!先に秀が喋って!」

それならば…と。
コホンと咳払いをして喉を整えて、最近起きた出来事を報告した。

「実は……最近とある人に告白されて」
「えー!?どこのだれ!?どんなひと!?最近っていつ!?返事はしたの!?」
「そ、そんなに一気に聞かないでくれよ」

一つずつ順に説明した。
大学のサークルの先輩であること。
所作が綺麗で気配りな人であること。

「…ぶっちゃけタイプってこと?」
「まあ…好感は抱いているかな」
「えー私とこんなところで飲んでる場合じゃないじゃん!大事にしなよ!」
「でも付き合うと決めたわけじゃあ」
「だからさっさと決めちゃいなって言ってるの!それでも男か!」

わしゃわしゃ、と頭をかき回されたので「セットが乱れるだろ!」と叱りつけた。
叱られてなお笑い続けていただが、
ジョッキを持ち上げてビールを口に注ぎ込むと、
ゴクリと大きな声を立てて飲み込み、また机に突っ伏した。

「そっかぁ……秀、彼女できちゃうんだ」

その顔は、酷く寂しそうに見えた。
というのほ、俺の自惚れか。

「そういえば、さっき何か言いかけてたけど」
「あー忘れて。ってか私も忘れた」

そう言ってビールの残りを飲み干して、
「おかわり頼んでー」というのでタッチパネルから追加ドリンクを頼んだ。
二日酔いにならないか?とハラハラするほど飲んでいたが、
ザルだから大丈夫、と自称したは何杯も頼み続けた。

残りの時間は日常的な雑談をして、解散となった。


そもそも今日はが恋人と別れたことから呼び出されていたわけで、
途中が不意に見せた表情は気になったが、
帰る頃には笑っていたから大丈夫だろう。
そう思って帰宅した俺であったが。


まさか

また翌日に呼び出されるとは。


「どうしたんだ。さすがに早すぎるぞ」
「……ムリィーーー!」

早速すぎる呼び出しに苦言を呈する俺に対し、
はやってくるなり大きな声を上げた。
そして泣き出してしまった。

「お、おい。大丈夫か……」
「今日はアドバイス、要らないから」

それは、傷ついているに寄り添えていないという
昨日の会話を受けての発言だとわかった。

「なんも聞かなくていい。泣くやむまでそこにいて」

鼻声でそう告げて、
突っ伏してシクシクと泣き出した。
しかし数分すると「ドリンク頼まなきゃ」と言ってタッチパネルからビールを選んだ。
この状況でも酒なのか…いやこの状況だからこそなのか…と
呆れたような感心したような気持ちで、
を待っている間に飲み終えたウーロン茶をおかわりしようとすると。

「…秀も飲め!」
「あっ、コラ!」

はタッチパネルを奪い返すとビールをもう一杯追加して注文ボタンを押した。

「こうなったら、今日は飲み明かすぞー!」
「こりゃ大変」

金曜土曜と続けて大飲み会が決定してしまったようだ。今日は付き合ってやろう、と俺も腹をくくった。

はお酒を飲み干しては、俺も飲むように煽り、
時折楽しそうに笑ったかと思うと急に泣き出し、
涙を流しながら怒り出す、ということを繰り返した。
大いに情緒不安定であるようだったが、表情がくるくると変わる姿は見ていて飽きなかった。
不謹慎ながら、笑うだけでなく泣いたり怒ったりするを見ていると
心の中が暖かくなってくるようだった。

はそのありのままを出していけばいいと思うけど」
「そういうの要らないってば」
「あ…ごめん」

余計なアドバイスのようになってしまったか、と自分の発言を顧みて、
もう一度、自分の心境を整理した。

「でも本当に、俺はそのままのが好きだよ」

伝えると、は目を大きく見開いて固まった。
俺の顔を見返してきながら幾度か瞬きを繰り返し、訝しげに潜めた。

「そういうこと言わないほうがいいよ」
「え?」
「彼女ができたらね」

彼女ができたら。
それもそうか。
それはそうだ。

「じゃあ、今日からやめるよ」
「……うん」
「というわけで、
「ンー?」

頬の肉が歪むほど頬杖をついた腕に体重をかける
ああ、やっぱり、を見ていると飽きないし、
こんなにも心が弾んでいるということにやっと気付いた。


「俺の彼女になってください」


・・・。


「へ?」
「うん」
「へぇぇえええ?!?!!」

長い間に続いて間抜けな声を出す
俺の相槌につづいて今度は大きく声を荒らげたところで
「おまたせしましたー」と店員さんが追加のドリンクを持ってきた。
ありがとうございますと受け取って、一口ゴクリと飲み込んで、
に向かってにこりと笑顔を作ってみせた。

「秀、告白された人は?」
「だから、特別ね感情を抱いているわけではなかったし」
「でもいい感じの人だって…」
「人としてはとても尊敬できるし良い人だよ」

でも、と間を一つ空けて、の方へ向き直った。

のことの方が大切だし、特別な感情を抱いている自分に気付いたんだ」

の目は驚いているように見えて、そして、
頬はわずかに赤く染まったように見えた。

が笑っていると嬉しい。笑顔にしてあげたいと思う。
 でも、泣いてる姿や怒っている姿ですら、良いな、と思えてしまうんだ」
「え、ええー…秀、思った以上に私のこと好きじゃん」
「そういうこそ」
「え?」
「今日はどうして泣いてたんだ」

考えているのか、単に睨まれているのか、
は潜めた目で俺を見たり机に目線を落としたりを繰り返した。
最終的に、長い結論が提示された。

「……好きでもなんでもないと思ってた人が、
 彼女できちゃうんだって気付いた瞬間にふごくすごく嫌で、
 その人のことが好きだって気付いた瞬間に失恋したって思ってたから」
「ふーん?」
「そんでもって…今は嬉しくて泣いてるーー!」
「おっと、こりゃ大変」

はまた嗚咽するまで泣き出してしまった。
そうするしかできなかったが、頭を撫でるように軽く叩いた。

「でも本当に?お酒も入ってるし、信じていいのかわかんないよ」

顔中をぐしゅぐしゅにしながらはそう言った。
だから、俺はこう返すことにした。

「じゃあ、また後日改めて言わせてくれ」

の両手を掴んで、にこりと微笑んで、とある言葉を告げた。
その言葉にの眼はハッと大きく見開かれて、
直後、見覚えのある眩しい笑顔が返ってきた。


『久しぶりに、あのミスド集合で』
























私は大石オタク過激派であると同じくらいミスドオタク過激派なので(笑)

今田美桜ちゃん起用のCMの良くなーい?
と思ってCMのキャッチフレーズ使って創作させてもらいました。

書いといてなんだが、私はこんなにチャラい大石は嫌である(笑)
たまには味変ということで(?)


2025/05/11-09/14