* 鳥ハ自由ヲ求メテ空ヲ飛ブ *
『ピンポーン』
「あ、大石だ。」
姉ちゃんに肩を借りて、
足を引きずりながらオレは玄関に向かった。
「忘れ物はない?」
「だいじょ~ぶいっ。んじゃ、行ってきまーす」
車椅子に座る。
大石に助けてもらって、玄関の段差を乗り越える。
後は、自分でタイヤを回して前へ進む。
こんな生活が始まって、一週間。
事件発生から、4ヶ月。
道路へ出ると、オレは車輪を回す。
「英二、疲れないのか?車椅子自分で押すのって」
「んー、でもこれもリハビリの一部なんだって」
横で歩きながら喋り掛けて来る大石。
オレは返事をしながら両手に精一杯力を込める。
オレの右足、神経がいくつか壊死しちゃったんだって。
正常に歩けるようになることは、きっとない。
自分の力で走り回ってテニスをするなんて、
なんだか夢物語見たいに思えた。
だけど数ヶ月前まで自分はそうだったんだと思うと、
寂しいような、不思議なような。
とりあえず絶望することはなかった。
暫くは、車椅子。
それに慣れたら、松葉杖。
最後には、自分の力で歩けるようにするんだ。
それには沢山のリハビリがある。
大変かも知れない。
苦しいこともある。
でも頑張っていこうと思う。
こんな体になってしまったけれど。
でも、骨折した部分は元通りになったように。
入院しているうちに、心の傷も、ちょっとだけ癒えた気がした。
自由なんて、きっとどこにもないんだ。
人っていうのは、いつも何かと戦っている。
それは周りの環境に対してだったり、他人に対してだったり、自分に対してだったり。
境遇は様々だけど、それでも何かがきっとある。
鳥は自由を求めていた。
ずっと戦っていたんだ、見えない敵に対して。
オレは、籠に閉じ込められた鳥だった。
飛び出してみたら、失敗して落ちてしまったけれど。
でも、とりあえず籠から出られたことで、世界は広がった。
困難は多い。
自由なんてそもそも無いのかもしれない。
だけど、それを追い求めずには居られないんだ。
「なんかさ…今、オレこんなになっちゃったけどさ」
「うん」
横を見て、笑顔を向けて。
「前より幸せになった気がする」
笑顔が返ってきた。
終わりが見えずもがいていた頃より。
限られていたとしても自由に生きている今のほうが。
なんか、幸せな気がする。
だけど、やっぱり本当の求めているものは、もっと遠くにある気がするんだ。
だから、オレは今日も空を見上げる。
鳥が羽ばたくその空を。
翼は無いけれど、だけどいつかきっと飛べる。
「…突然だけどさ」
「ん?」
「言いたくなったから言います」
少し急いで車椅子進めて。
きゅっと大石の前で止めて方向転換して。
にこっと微笑みながら。
「大好きだよ、大石」
―――自由ってなんだろう。
その答えははっきりとは分からないけれど。
だけどね、この気持ちがきっとコタエなんだ。
→
菊が病んでる話が書きたいなーと。
半年ほど前から考えてたけどやっと書いた。
書き始めたら早くて2日でさらりと終わった。
『翼になって(裏)』と被る予感がしてならないけどまあいい。
こっちの方がハッピーエンド寄りだしな。
最後の方、色々と浮かんじゃってどこで切ればいいのか。
最終的にホモエピソードを付け足して終わった。チーン。
色々詰め込んだお話です。
あとがきに何書いていいんだか分からない。終わる。
2003/10/16