* 信じるものはすくわれる *
今日も元気に僕たち青学テニス部は練習中です!
そんなコートの一端で…。
「オラァ一年!声出てねーぞ!」
「「はい!!」」
荒井先輩が声を荒げた。
その一声で、全体の掛け声が一層大きくなる。
なんだか、空気がピリッと張り詰めた感じ。
よーし、僕も頑張らなきゃ!
「青学ぅー!ファイッオー!!」
**
「今日も疲れたね」
「うん」
「まったくだぜぇ~」
練習も終わって、片付けも終わって、
僕たち通称三人トリオも部室で着替えて帰る準備。
ふと、今日の練習の風景を思い出す。
「僕思うんだけどさ、荒井先輩って…」
「そうそう」
僕と堀尾君が同時に声を出した。
「「実は優しいよね・おっかねーよな」」
………。
「何言ってんだよカチロー!荒井先輩ほど怖い先輩もいないだろ!?」
「そうかなあ?」
意見が真反対でぶつかっちゃった…。
あれーおかしいなあ…。
「ぶっきらぼうではあるけど、悪意がある感じではないっていうか…」
「えー、そうかなー…」
カツオ君も堀尾君の意見に賛成かあ…。
「だってさっきもだぜ?まあ確かに俺たちの声も小さくなってかもしんないけど
言い方ってもんがあんじゃん。なーのに荒井先輩ったらさ~!」
「堀尾君!後ろ!後ろ!」
「…邪魔だよサル」
「ひぃぃぃ!荒井先輩ぃ!!!」
シャキン!と気をつけの体制になって堀尾君は荒井先輩を避けた。
荒井先輩はチッと舌打ちをしながら横を通過していった。
カツオ君も急いで荷物をまとめると、
「お疲れ様です」と残してすすっと部室を後にしようとした。
荒井先輩は、それを横目で見た。
僕も帰ろう。
「荒井先輩!」
「あ?」
こっちを振り返るのを待ってから頭を下げた。
「お疲れ様でした!」
「…ああ、お疲れ」
満足した僕はその場を後にして、
部室のドアをパタンと閉めた。
さて、と思って振り返ると
堀尾君とカツオ君が動揺して慌てふためいていた。
「どうしよどうしよ!!さっきの絶対聞かれたよなぁあ!」
「まずいよ堀尾く~ん」
「カチローなあどうしよう!」
堀尾君がしがみついてきた。
でも僕は笑って返す。
だって、怖くないもの。
「でも今、挨拶したけど怒ってなかった風だったよ?」
「げー!よくあの状況で観察までしてられるなー!」
うーん。
こんなこと言っていいのかなって思うけど。
「たぶんさ」
「「うん」」
「荒井先輩の方が、怖がりなんだよ」
「「……はぁ?」」
二人の声が見事に揃った。
まあ、そういう反応が返ってくると思ったよね…。
「自分が嫌われることに敏感な気がするんだよね。
だから、先に心を開かないとダメなんだと思う」
「そうは言っても…なぁ?」
「うん……」
やっぱり二人からは良い反応が返ってこない。
うーん…なんて言えばいいんだろう。
「さっきの掛け声も怖かったっていうけど、
ああいうこと言うのってすごく勇気いることじゃん?
言ってくれる荒井先輩は優しいと思う」
「そうかもしんないけどさぁ」
「やっぱり、怖いのは変わらないよねぇ…」
勿体無いなぁ…。
本当は荒井先輩、もっと優しい人なのに。
僕にはなんとなくわかるんだけどさ。
言葉や態度は悪いけど、いつも部のことを一番に考えてくれてる。
僕らにだって厳しいけど、ただいじめたいだけではないと思う。
そんな荒井先輩が悪く言われてるのはなんだかかわいそうだって思うんだ。
「そんなことないって!先にこっちが心を開けば大丈夫だって」
「そんなの無理だよ!怖ぇーもん!」
「怖くないよ!」
「カチロー、なんでお前そんなに荒井先輩の肩を持つんだよ!」
そう言われて。
荒井先輩のこと、
尊敬してるっていうか。
少なくとも怖くないっていうのはわかってほしくって。
みんなは勘違いしてるってのを伝えたくて。
どうすれば伝わる?
なんで荒井先輩の肩を持つ?
だって?
だって…?
「僕、荒井先輩のこと好きなんだもん!!!」
…思わず叫んじゃった。
ゆっくり、目を開ける。
と。
目の前で、堀尾君とカツオ君が固まってる。
視線は、僕よりも、ちょっと後ろで、ちょっと上……えぇっ!?
「ああああらいせんぱいっ!!!」
「お、お前ら、何やってんの…」
「えっ、いやその、これは、えっと!」
キョロキョロと助けを求めたけど、堀尾君はとっくに遠くに逃げてるし、
カツオ君は迷いながらも結局堀尾君を追っかけた。
「ああああの、誤解しないでください!
って、何を以ってして誤解って言いますかというと!えっと」
「加藤……」
僕、今絶対顔が赤い!
でもちょっと待ってこんなの告白とかそんなんじゃなくて!
なのに荒井先輩まで釣られて顔赤くなってるよこれどうすんの!
どうしよどうしよ!わー大変だよお!!
「……聞かなかったことにするわ」
「あ、ハイ。すみません…」
あっさりとした一言で片付けられた。
さすが、冷静だなあ。
何僕一人で動揺してるんだろ恥ずかしい……
「あの、本当に深い意味ないんで…」
「…ぁってるよ」
顔を背けたまま荒井先輩は答えた。
どうしようもなく斜め後ろを歩く僕。
フォローしてる時点で墓穴掘ってないよね…?
(本当に深い意味なんてないんだけど…)
荒井先輩が門を出て左に向かうのを見送って、
僕は右に曲がって小走りで帰宅した。
**
翌日。
朝練に向かうと、堀尾君とカツオ君にすごく謝られた。
あの後大丈夫だったか?って。置いて帰ってごめんなって。
だから僕は、何もなかったよ大丈夫だよって。
うん、なんともなかった…よね?
ただ、なんだかやたらと荒井先輩と目が合うようになって、
怖くない怖くないと自分に言い聞かせるんだけどどぎまぎしちゃって、
でも荒井先輩も何も言ってこないし、気にしてるのは僕だけかな。
心を開いていれば、大丈夫だよね?
何も怖いことなんて、ないよね…?
さあ今日も、頑張って声を出そう!
「青学ぅー!ファイッオー!!」
荒井先輩は怖くないよ、と心を開いてるカチロー、
アイツはビビッた態度取らないのな、と心を開き返してる荒井先輩、
ていうことなんだと思うんだよね。体験談。(笑)
とまあお互いに心を開いた状態まではきてたんだけど、
この事件をきっかけに荒井先輩がカチローを意識し出すっていうねw
もちろんカチローは本当に何も深い意味はないのにwww
荒カチは、恋愛感情があるのは荒井だけなのに
その荒井が認めようとしないから、絶対ラブに発展しないの(笑)
マジ少女漫画(笑)受×受(笑)ていうか百合(笑)
タイトルは、(足元を)を入れるのが正解ww
2012/03/02