
* 穏やかに人を待つ方法 *
青春台の駅前の時計台の下は、
待ち合わせ時には人が一杯。
特に、12時とか、12時半とか、
そういう区切りの時間帯には人が増えて、
組を作っては離れていく。
でも私は…。
『ワリイ寝坊した!今から準備する!』
それだけのメールが来たのが、12:25。
私が待ち合わせ場所に来たのと同時。
何時頃着く?って返事したけど、
準備してるところなのか気付いてない様子。
いつ頃着くのかわからなきゃ動くこともできないじゃん…。
そこから準備ってことは、着くの13時回るよな。あー…。
かといってどっかに入るにも微妙な時間だしなあ…。
と思って携帯を弄ってたら、
男の人が近付いてくる足元が見えて顔を上げた。
え、もう?
…と思ったけど違った。
この人も同じ場所で待ち合わせみたいだ。
時刻は12:40。
12時半に待ち合わせてた人たちがほとんどいなくなった様子。
13時に待ち合わせの人はまだ来てない。
というわけで、ここに今いるのは、
私と、
その男の人の2人だけになった。
この人は…13時に待ち合わせかな?ちょっと早めに来る人かな?
ちらっと顔を見たら…割とイケメン。
どうせ暇だし、話しかけてみちゃおうか。
アイツが遅刻してきたときに私がイケメンと喋ってて、
やきもちやいて反省すればいいよ、うん!
と、思ってたら
「いい天気ですね」
向こうから声を掛けられた。
え、実はナンパ師?
こういう手法?
待ち合わせしてると見せかけて釣ってるの?
ちょっと警戒しつつ
「そうですね」
とだけ返した。
その人はこっちを見るでもなく、駅の方を向いたまま。
んー、ナンパが目的ってわけじゃないか。
こっちから話を振ってみる。
「相手遅れてるんですか?」
「いや、俺が早く来すぎちゃって」
とのこと。
やっぱり、13時待ち合わせかな。
「相手、彼女さんですか」
「はい。そちらは?」
「私も、彼氏と。寝坊されました」
「そうですか」
ははっと笑った。
柔らかい笑顔だと思った。
釣られて、私まで温かい気持ちになった。
遅刻されるのはイヤだけど、
こういう時間があると、それも少し和らぐね。
遅刻された経緯を愚痴ってみたりとか
今日はどこに行く予定ですか~?って聞いてみたりとか。
どちらかというと私が話してる時間が長くて
向こうは終始にこにことして相槌を打っていた。
偶然、待ち合わせ時が被っただけで、
お互い別に相手はいるっていうのに。
なんだか、こんな些細な時間が、幸せに感じられて。
…かといってこの時間が続いてほしいかというとそんなことはなく。
早く来ーいって思いながらキョロキョロするけど、待ち人は来ず。
でも横の人は、あたりを見回す素振りは見せても、
必死に待ち人を探している雰囲気ではない。
あんまり待たされてもイライラしない人なんだろうなー…。
っていうか、寧ろどこか嬉しそう?そんなまさか?
まあでも自分が早く来すぎたって言ってたし、怒るのも筋違いか。
もうすぐ13時。
人がだんだん増えてきた。
どんな連れが来るのかなー。と思うのに。
人が、増えては離れて。
また人は捌けていって残される私たち2人。
気付けば時刻は13:10。
…アレ?
横の人は、時計も携帯も気にする素振りはない。
……え?13時待ち合わせじゃない?
どんだけ早く来たの!?
そのとき、遠くからドタバタと足音。
「お待たせ!ワリーワリー!」
…私の連れでした。
「もう!せめてメールくらい返してよ!」
「え、メール?メールなんて来てた!?」
もう。
思わずため息。
でも、笑っちゃった。
いつもなら怒っててもおかしくない場面なのに。
「お腹減っちゃったよ、行こ」
「おお。何食う?」
質問に返事する前に。
「じゃあね」
「ああ。楽しんで」
そこに残る人にヒラヒラと手を振ってから歩き出した。
横の人は、当然食いついてくる。
「誰、アイツ」
「ひーみつっ!」
「おい、なんだよそれ!」
ほーら、妬け妬け!
そして遅刻したことを反省しろ!
私はケラケラと笑ってやる。
自分も笑いながら、さっき見た柔らかな笑顔を思い出す。
相手が来るのを嬉しそうに待ってたあの人。
その人を待たせてるのはどんな人なのかな、
なんて何故か気になってしまった。
もう待ち合わせ場所を離れた私には知る由もないけれどっ!
『待ち合わせ時の過ごし方』の大石だと思います。
このあと、あのお騒がせ主人公が
全速力で突進してきてあの話に繋がるのかと。
てわけでこの話には主人公の名前出しませんでした。
(向こうの話の主人公と別人物扱いにしたいからw)
大石だって決して待たされるのが好きなわけじゃないはず。
でも、待ってる間の時間は好きなんだろうなと。(微妙に違うよね?)
2014/03/16