* 月の終わり *
-the end of the moon- part.11
「おっはよ〜不二!」
「あ、英二!おはよう」
今日のオレは上機嫌だった。
みんなの励ましはもらったし。
悪い夢も見なかったっぽいし。
朝、目が覚めたら妙なほどすっきりしていたんだ。
うん、なんか…大石がいなくなる前の日々の朝みたいな気分。
いないことはわかってるけど。
今度こそ、完全に吹っ切れたのかな、きっと。
「英二…元気になったみたいだね」
「うんにゃ。バッチリ〜♪」
だと思うよ、たぶんね。
「良かった…結構心配したんだよ」
「ん。ごめんね〜」
不二は肩を撫で下ろしていた。
でも良かった。普通に話せて。
仮にも…この前はあんなことがあったわけだし。
あんなこと……。
「どうしたの、英二」
「んにゃっ!にゃんでもにゃい〜…///」
思わず赤面しているオレに、不二がなるほど、といってクスリと笑った。
「あの時のことね、ゴメンネ、僕も気が動転しちゃってさ。
でも、英二すっごく可愛かったよv」
「にゃにその言い方〜」
不二はオレの様子を見て楽しんでるようだった。
いじわる…。
でも、この前みたいに必要以上に気を遣われるよりはましかもしれない…。
こうやって、オレも少しずつ戻っていくんだ。
もう大石はいないけど、それが普通になっていくんだ。
…それも悲しいけど。
でも、オレ元気になれたよ、大石!
…そうか。今思ったけど、
オレが元気になれば、大石も喜んでくれるんじゃない?
このままでいい。
このままでいられれば…。
オレはそのまま、平和な数日間を過ごした。
そしたら、越前が部活の休憩中に俺に話しかけてきた。
「菊丸先輩、元気になりましたね」
「まあね、もう元通りだよ〜ん」
そう言って、オレはピースを向けた。
笑顔と共に。
そうだよ。オレは元通り。
…なんか自分に言い聞かせてない?
いや、違う違う。
オレはもう元気になれたんだ…。
「……大石先輩のこと、ふっきれたわけっスね」
『ドクン』
……。
なんだよ。
オレは平気なんだよ。
何で大石の名前を聞いただけで
こんなにも激しく脈打つんだ。
自分で考えてるだけなら平気だったのに…。
気のせいだって気のせい。
動いた後だからだ。
だから鼓動が速いんだ、そうだよ。
だからに違いない。
でも…。
苦しいよ。
痛いよ。
大石……。
「……」
オレが黙っていると、越前はベンチに座っているオレの正面に立った。
少しだけ、見下ろされる。
そして、言ってきた。
「だったら、こんなことしても平気っスよね」
「!」
オレが身構えるまもなく、額にキスされた。
「!!!」
周辺の視線が、一斉にこっちに集まる。
オレは驚いて立ち上がった。
「おチビ!何やっ…今部活中!!」
「部活中じゃなければいいんスか?」
「う……」
焦るオレに、いつもの通りヒョウヒョウと言った。
なんだか悔しかった。
でも、意図が読めなかった。
「どうして、こんな…」
「大石先輩のことは忘れたんでしょ?俺と付き合いましょうよ」
「何言って…!それとこれとは話が違う!!」
辺りも気にせず言ってくる越前に、オレは顔が真っ赤になるのを感じた。
どうして…そんなこと……。
オレは、大石が…大石が……。
「…フゥ」
越前は溜め息をついた。
そして、オレを見下ろしたまま、言った。
いつものように凛とした、少し鋭い視線で。
「アンタさ、いっつも空元気してるのやめなよ」
「!」
オレは、素直に悲しかった。
『カラゲンキ』
空元気?
オレいっつも空元気だった?
違うもん!
オレは本当に元気になったんだ。
空元気なんかじゃ…ない!
「おチビ、なんだよそれ!」
無意識に怒った口調になる。
オレは自然と眉をしかめた。
それもこれも泣きそうなのを堪えるため。
「だって先輩、無理して自分作ってるじゃん」
「作ってない!!」
オレは越前の言葉が消えるような勢いで叫んだ。
「そこ、何をしている!」
手塚が止めの一言を出した。
すると越前は、何も言わずにさっさと何処かへ行ってしまった。
なんで?
なんでなんで?
なんでそんなこと言われなきゃいけないの?
越前の背中を見ていたらなんだか悔しくなった。
胸が張り裂けそうだった。
越前にいろいろ言われたから?
違うよ。
大石のこと、吹っ切れてないってわかったから…。
「……」
溢れてきた涙を必死に瞬きで掻き消した。
横で不二とタカさんが心配そうにしているのも感じた。
越前が一瞬振り返ったのもわかった。
でもオレはそっちに目を向けないまま、
手塚のところへ行った。
結局オレは息苦しくなって、部活を早退したんだ。
涙で世界が歪んで見えた。
「……」
学校の帰り道、俺は独りだった。
独りだと、いろいろ考えさせられる。
……今、自分が精神的に不安定なのがわかる。
まあ、それはこの10日間ぐらいずっとそうだけど。
今まではそんなことを考える余裕も無かったから、まだいいのかな。
でも…考えてしまう分、やっぱり辛いかも。
空元気、か…。
考え方によっては、空元気でもできるようになったから良かったのかもしれない。
でも、オレすぐ顔に出るからな…。
きっとどこかで無理な笑顔を作ってたんだろな…。
あ〜複雑。
この前からオレずっと元気な気でいたけど、
ずっと空元気だったのかな?
…無意識に気持ちを制御することによって、
大石への思いも削減してたのかな?
う〜〜…。
オレ、やっぱダメだったよ。
ごめんね、大石…。
オレ、弱いな…。
強くなりたいって、前から思ってるのに。
前はもう少し強かった?
…大石がいたから。
大石が勇気を分けてくれたから。
じゃあ大石がいなくなって落ち込んでるときは
どうすればいいんだよ?
涙で目の前が霞んだ。
いつもの帰り道が違うものに感じた。
意識が朦朧としていた。
その時、クラクションが聞こえた。
同時に、見知らぬおじさんの声。
『パッパ―――』
「君、信号!」
「―――」
―――暗転。
オレの意識はここで切れた
真上の空には、きっぱりと半分に割ったような
見事な半月――。
→
ほい。
うわ〜な展開。
でも安心して。まだ死んでません。事故っただけです。(だけってな…)
あ〜…これからどんどんダークになってくよ…。
今まではドシリって感じじゃないっスか?
これから、…もう菊さん病んでます。
どうしよう……。(自分がビビってどうする)
2002/08/25