* 月の終わり *

-the end of the moon- part.12












「―――」

……ここはどこ?

なんか、白いし…。
全身痛いし。
独特の匂い。
ここは…病院――?


「オレ…」
「英二?英二!?目が覚めたのね!」
「…お母さん?」
「ああ、もし英二がいなくなったらってずっと考えてたのよ!」

えっと…。
オレは病院のベッドで寝ているみたいだ。
全身には包帯が巻かれてるし、色々な管に繋がれている。

お母さんは、布団に伏せるようにしていたのを、
オレが声を出すと急いで飛び起きた。
手はずっと握られていたみたいだ。
…お母さんは泣いていた。

あ〜あ、最近のオレは人に迷惑かけてばっかだ。

「……」

そうだ、オレ、学校の帰りに考え事してふらふら歩いてて、
涙で前も見えてなかったし…。
きっと赤信号だったんだ。
あー、ほんとバカ…。
でも、生きてたんだね……。
しかもよりによって、事故のあった場所この前と同じじゃん。
この前は向こうが信号無視だったけど、今度はこっちが…。

あ〜あ…。
どうせなら、死んじゃえば良かったのに。
大石と同じ場所でさ。


「本当に本当に心配したのよ!良かった、生きてて…」
「……」

やっぱ、さっきの考え取り消し。
生きてて、良かった。
そうだよ。オレはみんなに支えられて生きてるんだ。
それに報いるためにも、生きなきゃ。
大石のためにも……。

「今、何時?」
「えっとね、…夜の11時半」
「11時半か…」

結構気を失ってたんだな。
……。

「で、オレって結局どうなったの?」
「あ、ああ、あのね、全身に軽い打撲とかすり傷、
 それに両足と左腕を骨折、全治二ヶ月」
「全治二ヶ月…」

二ヶ月か…長いな。
その間に…吹っ切れるかな?
テニスと関わることも無いだろうし…。

「…二ヶ月も部活できないの悲しい?」
「えっ?あ、うん…」
「そう…そうよね…」

…そんな、考えてることと反対のことを言う。
いや、テニスできないのは、嫌だけどさ。
でも、テニスをすると大石を思い出しちゃうから…。

…どこまでもまとわり付いてくる。
オレにとって、枷のようなもの。
意味、自由を拘束するもの。
また、はなれがたいもの……。

…。

オレって過去に捕らわれすぎかな?
新しいもの見つけたほうがいいのかな?
この10日間、いろいろなことがあった。
でも、最終的には何一つオレから大石を忘れさせてくれるものは無かった。
取り払ってはくれなかった。
消し去ることなんて無理だった。

もう…オレが幸せになるには……。
いや、ダメダメ。
さっきも決心したはず。
でも……。

「英二」
「!」

突然声を掛けられて、ちょっとだけビックリした。
お母さんは鞄を持って立ち上がった。

「それじゃあ、お母さんそろそろ帰るからね!何かあったらこのボタンを押して…」
「ん、大丈夫」

出来るだけの笑顔で言った。
家族にだけでも心配掛けないように。

……それはやっぱり空笑だったかもしれないけど、
それでも、精一杯の笑顔をした。

「それじゃあね。お医者様言うことはよく聞くんだよ!」
「うん。わかった」
「じゃあ、また来るからね」

『パタン』

「……」

ドアが閉まると、一気に部屋は静まり返った。
ん〜…なんかなぁ…。
独りでいると、いろいろ考えちゃうな…。

はぁ〜…。
溜め息出ちゃうよ。
……。
夜中だしな。
寝るか。
…なんか落ち着かないけど。
………。






  **






『ピチチチチチ…』

「…?」

ここ、どこだ?
あ、そうだ。オレ入院してんだ。
ここは病院だった。そうそう。
ふぅ…。
なんか早くもホームシックって感じ。
やだなぁ…。

『コンコン』

「…はい?」
「あ、起きてますねー」

そう言って、元気そうな看護婦さんが入ってきた。
割と小柄で、美人というよりは可愛い印象の人。

「おはようございますー!」
「…おはようございます」
「えっと、今日から担当になります、白川です!菊…、えー…」
「菊丸です」
「そうそう、菊丸君!これからよろしくね!」
「ども…」

…びっくりしたぁ〜。
すっごい元気のいい人だな。
……オレも前はあんなノリだったような…。
不二にうるさいって怒られたのもわかる気がする。
…楽しかったな、あの頃は。

「それじゃー朝食お持ちしたのでっ!」
「……」

目の前にお盆が担ぎ込まれる。
なに…病院のご飯って結構多いんだね。
最近減らしてたから余計そう感じるのか…。

「無理して全部食べなくてもいいからね。
 でも、ちゃんと食べないと元気になれないよん」
「はい…」

ほんと元気一杯。
オレも戻れるかな…。

「それじゃ、ごゆっくり〜♪」

そう言って、部屋から出て行った。
…。
あんま食欲無いんだけどな。
ちょっとだけでも、食べなきゃね。

一口、箸に掴む。
口に運ぶ。
飲み込む。
……。

「んっ!? ゲホッ!ゴホゴホッ!」

どうしたんだ?
ほんとに大した量じゃないのに。
胃が寄せ付けないって感じ…。
…なんか吐きそー。
もういいや、食べなくて。
オレ…相当滅入ってるな。
う〜……。


「失礼しまぁーす。食べ終わったかな?」

30分後ぐらいに、白川サンがまたやってきた。

「……あらま。全く食べてないみたいじゃない!」
「うん…」

白川サンは溜め息をついて言った。

「だめよ、ちゃんと食べなきゃ。せめて一口ずつでも…」
「…食べたくない」
「菊丸く…」
「食べたくない!」

思わず強い口調になる。
自分の声が少し震えてるのがわかった。
なにやってるんだろう、オレ。
白川サンは何も悪くないのに、八つ当たりみたいなことして。
…白川サンが昔のオレとかぶって見えて、
少し嫉妬…してたのかもしんない。
やなやつだな、オレ…。

それでも、白川サンは優しく言ってくれた。

「じゃあさ、水だけでも飲めないかな、水分は取らないと…」

オレは頷いてコップを右手で持った。
手が震えるのを必死に抑えて一口飲んだ。
…予想外に美味しかった。
オレは一気に全部飲み干した。

「良かった。ちゃんと飲めたね。これからも、食べれない時でも水分は取るようにして。
 あと、何か食べたいものとかあったら遠慮しないでバシバシ言っちゃってね!」

そういうと、白川サンはお盆を回収していった。

「それじゃあね〜♪」

…どこまでも上機嫌な人だな。
でも、励まされたかも、少し。
人間って不思議。
さっきまでは鬱陶しささえ感じてたのに…。

そうだよ。
人は変われるんだ。
オレが変わろうとしてないだけだ。
努力次第で変われるって。きっと。
でも…変わる気すら起きない。
最近何事にもやる気で無いな…。

あ〜…。
やっぱ寝るしかないわけ?
オレ最近そればっかじゃん?
………。


シニタクナッテクル。


「ダメ!だめだってそんなこと考えちゃ…」

でも、最近いつでも死ぬことばっか考えてる。
やだな、こんな自分。
この二週間近くずっとそうじゃん?
どうしてだろ…頑張ってるのに戻れない。
苦しい…。
とっても憂鬱って感じ…。
助けてよ…大石……。



オレはそんな気分がずっと続いた。
食事も取れない日々が続き、水だけで用を済ませていた。
そして、ついに眠ることすら出来なくなってしまった…。


月は、だんだん日に日に大きくなっていった。
夜空も少しずつ明るみを増していく、そんな感じがした。

























菊さんが病んでるよぅ!!(涙)
自分で読み返してもこの辺辛いっス;;
あ〜うわ〜ん。
この後暫く憂鬱菊さんばっかだもんなぁ。
早く青学のみんな出したい。
ってそしたら終わりじゃん。
うわ〜ん!(号泣)

白川さん、名前に特に意味なし。
咄嗟に閃いた。そんだけ。(オイ)


2002/08/27