* 月の終わり *

-the end of the moon- part.13












……。


今日も眠れなかった。

鏡を見ると、そこに頬のやつれた俺がいた。

クマがすごいし。
髪もボサボサだし。
でも、どうでもいいや…。

「英二くん、おっはよ〜!」

それでも、相変わらず白川さんはオレに優しく明るく接してくれた。
それだけは有難かった。

「英二くん…入院してきたころに比べるとちょっと痩せた?食べてないから当たり前か…」

そう。オレはこの一週間、点滴だけで生き延びている状態だった。

「病院に来てからずっとだよね。う〜ん」

首を捻る白川さんに、オレは言った。

「病院…来る前から…」
「え?もしかして…その症状は前から…?」

オレは静かに頷いた。
そしたら、白川さんは突然真面目な顔になった。

「それってどれくらい前から!?」
「え、えと…二週間以上前、です。何日かは食べれた日もあったけど、また逆戻りしちゃって…」
「そんな…」

オレは気迫に押され気味で答えた。
すると白川さんは怯えたような表情をした。
病院と怪我でちょっと精神が不安定になってるだけだと思ったのに…
とかなんとか呟いてた。
そしてまたこっちを向き直って言った。

「他に…何か症状はある?」
「えっ?えーっと…なんか…何やってもやる気が出ないし、
 毎日のように泣いてて…なんでも悪いほうに考えて落ち込んじゃから、
 無理に笑おうとして…でも笑えないし。ずっと…苦しくって……」

そう言ってる間にも、弱ってしまった自分に苦しさを感じた。
次の言葉は言うか言わないか迷ったけど、
息を一回呑んでから、言った。


「たまに……死にたい」
「!」


あ〜あ。ついに言っちゃったよオレ。
人に言うの初めて…だね。
だって、辛かったんだよ。ホントに。
誰でもいいから思いを打ち明けたかったのかも知れない…。

すっと顔を上げると……驚いた。

白川さんが、泣いていた。

あ〜…オレまたやっちゃったのかな。
もうヤダ…。

そしたら白川さんはオレに抱きついてきた。

「ゴメンね!ずっと辛かったんだね。
 ごめん…気付いてあげられなくて…」
「……」

また、涙が出た。

この二週間、
オレは何回泣いただろう。
何回人を泣かせてしまっただろう。
何人人を傷付けてしまっただろう…。
数える気すら起きなかった。

「ちょっと…ここにいてね」

白川さんは少し気が動転しているのか、
自力では動けるはずもないオレに念を押して、
走って部屋を出て行った。

なんだろ…すごく焦ってたけど、何かあったのかな…?
オレが変なこと言うから…だろうけど。


オレはそっと涙を拭った。
暫くすると、すごい勢いで白川さんが戻ってきた。

「英二くん…ちょっと、いい?」
「…?」



オレは車椅子に乗せられて、病院の中を移動した。

なんか別の棟に来たみたいだけど…。
ん?なんだ?
……精神科…?

一つのドアの前に止まって、白川さんが言った。

「あのね、英二くん。落ち着いて…聞いてね。
 まだはっきりしないのにこんなことほんとは言いたくないんだけど、
 さっきの話を聞いたところだと、その……鬱病のね、可能性があるかなって…」
「鬱病……」

鬱病って…あれ?
引きこもりとか…あの何もかもやる気なくなって、
落ち込んじゃうやつ…そのまんまじゃん、オレ。

「それじゃあ、入るよ?」

オレはコクンと頷いた。
車椅子が押された。
扉が開かれる。
それで、オレは問診を受けることになった。

「じゃ、あたし外で待ってるから」

そう言って白川さんは部屋から出て行った。


「大体の話は白川君から聞いた」

先生はカルテを取り出した。
ペンをカチカチと押すと、ゆっくりと喋りだした。

「それじゃあ、これからいくつか質問をするから正直に答えてね」

そういって、8こか9こぐらいの質問をされた。
質問が終わると、先生は「う〜ん」と言って首を傾げた。

「結構大変だね」
「はぁ…」

そんなにオレやばい状態だったんだ…。

「重度の鬱病と、それから拒食症が来てるね」

そういうと、また「う〜ん」と首を捻っていた。
オレは、座って黙ってるだけ…。

そしたら、訊かれた。

「こうなってしまった原因とかに心当たりある?」
「あ…」


……ドクンと心臓が脈打った。
また思い出しちゃった。

あの瞬間。
自分に向かってくる車。
恐怖で竦む足。
そんなオレを庇って、代わりに……。

「うわぁぁぁぁ!」

オレは頭を抱え込んで思いっきり叫んでしまった。

強いトラウマ、繰り返されるフラッシュバック。
オレはもう限界だった。

でも、ここは精神科。
もうこういう人の対処には慣れているのか、比較的落ち着いた声で言った。

「大丈夫、大丈夫」
「……」

実際、オレはその言葉で落ち着いた。

「落ち着いて、言ってごらん」
「…はい。実は…」


オレは訳を話した。
…大石のことだけね。
さすがに他の人のことは言えなかったけど…。

でも、それだけでも参考になったらしく、
また先生は「う〜ん」と唸っていた。

「そうだなぁ〜」

足を組みなおして、なにやらカルテをコンコン叩いている。

「やっぱりその時の心の傷みたいのはあるのかねぇ〜」
「……」
「これは様子を見るしかないな」
「はぁ…」

心の傷、かぁ〜。
…なんかシビアな感じ。

「それで、夜眠れないと言ったね」
「あっ、はい。前は平気で…むしろ寝てばっかだったんですけど、
 ここ一週間ぐらい…なんか…」
「そうか。じゃあ、睡眠薬と精神安定剤だしとくから。
 睡眠薬は夜寝る前。精神安定剤は一日最低三回まで。空腹時はなるべく避けること」
「わかりました…」

そう言ってオレはなにやら薬がたくさん入ってる袋を渡された。
薬かぁ…。
でも、これで少しは楽になれるのかな…。

そう考えながら、オレは礼をした。

「ありがとうございました」
「ああ。また何か変化があったら来てくれ」

笑いかけてくれた先生を背中に、オレは自分で車椅子のタイヤを回して部屋を出た。
そこで白川さんが待っていた。

「どうだった?」
「…白川さんが言ったとおりだった」
「そう…」

オレが俯き加減で言うと、白川さんもまた悲しそうな顔をした。
でも、その表情はすぐに切り替わった。

「ま、たまには落ち着くことも大切だよ!部屋に帰ってゆっくりしな」

白川さんは明るく喋りながら車椅子を押してくれた。
いつでも明るく接してくれて、嬉しかった。
必死に励ましてくれてるんだね……。


途中廊下の窓から外を見たけど、角度の問題か時間の問題か、
月は見えなかった―――。

























はぁ〜。(溜め息)
この辺書いてて辛いんスけど。(知らないよ)
鬱病とかについて知るため、
わざわざ通ってる整骨院から本を借りてきた。(整骨院!?)
いや、なんか健康に関するいろいろな本があって…。
そんな努力も虚しくヘタレ。(涙)

頑張れ英二さんっ!(号泣)


2002/08/28