* 月の終わり *

-the end of the moon- part.14












部屋に帰って、オレはすぐに睡眠薬を飲んだ。
飲んで10分もしないうちに、眠気はやってきた。
そして、そのまま眠りに落ちた――。



 ***



「それじゃあね、英二。僕たちもう行くから」
「待って…待って不二!行かない…で…」

手を伸ばしたけど、それじゃ届くことはなかった。

「待って…待ってよぉ…」

次にそこに立っていたのは、手塚だった。

「手塚…」
「規律を乱すやつは許さん!出て行け」
「手塚!オレ何もしてな…」

言い終わる前に、手塚は消えた。

「どうして…」

涙が溢れてきて視界が薄れた。
その掠れた視線の先に、桃が見えた。

「何やってんスか、エージ先輩。早く行きましょうよ」
「桃…助けて…足が動かないの……」
「動かない?じゃあ仕方ないっスね」
「え…?待って桃!一緒に連れてって…」

必死に縋り付いて頼んだ。でも…

「無理っスね」

それだけ言うと、桃は走っていってしまった。

「ひどい…ひどすぎるよ……」

思わずペタンと座り込む。
すると、誰かの足が見えた。
上を見上げると…

「タカさん…」

タカさんがいた。

「タカさんは、連れてってくれるよね?」

でも、タカさんは首を縦に振ることはなかった。

「ゴメン、英二」
「タカ…さん?」
「ごめんね」
「うそ…待って…」

タカさんは後ろをたまに振り返りながらも、
ゆっくりと遠ざかっていった。

「なに…なんなのさ……」

頭の中がグルグルした。
それを必死に落ち着かせようとした。

「これは…夢だよ。そうだよ。
 すぐに目が覚めるよ…」

そう自分に言い聞かせたけど、目が覚めることはない。
それに…心の痛みは本物だった。

「早く…目、覚めてよぉ…」

そうは思っても、その世界から抜け出せない。

「苦しい…」

そんな時、越前が来た。

「えちぜん…」
「……」

オレは何も考えられなくなってただ越前の顔を見ていると、
越前は溜め息混じりに言ってきた。

「菊丸先輩、なにも変わってないじゃん。あの時のまま」
「!」

息苦しくなって目を逸らすと、今度海堂がいた。
そして、言われた。

「先輩がいけないんスよ。変わろうとしないから」
「そんな…オレだって……」

それ以降は涙が溢れてきて声が出なかった。
まさか海堂にまでこんなこと言われるなんて思わなくて…。

「それじゃあ、俺たちいきますんで」

越前がそう言って、二人は後ろを向いて歩いていった。

「やだ…待っ…て……」

泣きじゃくるオレの前に出てきたのは、乾。
いつも通り無表情で、なにを考えてるのかは読めなかった。
乾はノートの中を見ながら、こんなことを言った。

「お前が元に戻れないのは、何かを忘れられないからだろう」
「!」

乾は眼鏡をついと上げた。

「それを忘れない限り、お前は…」
「なに!?なんなの乾!!」
「残念だな…」
「イヌイ!!」

オレは思いっきり叫んだけど、
乾は霧のように霞んで消えた。

「そんな…」


どうしたらいいの、オレ。

何度も忘れようとした。
でも忘れられなかった。

辛い。
苦しい。
悲しい。
痛い。

痛い…痛いよ…。


オオイシ………。

もう、無理だよ…。


「会いたい、よ…」


思わず呟いた。
その時、目の前に立ってたのは…。

「大石……!」

大石がいた。
でも、素直に喜べなかった。
なにかまた言われるんじゃないかって。

でも、意外なことに大石は笑いかけてきた。

「英二…」
「大、石…?」

オレが恐る恐る声を出すと、
突然大石は悲しそうな顔をして近付いてきた。
そして、オレの前で立ち止まると…軽く抱き締めてきた。

「おおいし…」

…やっぱり、幸せだった。
大石の腕の中にいられること。
思わず声を漏らすと、大石は訊いて来た。

「英二…辛いか?」

訊かれたので、素直に頷いた。

「そうか…そうだよな」
「助けて…」

大石が優しく言ってきたので、
オレは少し甘えた声を出して、大石の背中に腕を回した。
そしたら、大石はこんなことを言った。

「英二…そろそろ、こっちに来るか?」
「うん!行く!!」

大石が言う“こっち”ってのが何処かはわからなかったけど、
大石と一緒にいられるなら、それで良かった。
この苦しみから逃れられるなら、それで良かった。

「う〜ん…でも、もう少し頑張れるか?」
「ん…わかった」

大石に言われたから、素直に受け入れた。

「じゃあ、また…」
「―――」

それだけ言うと、大石は消えてしまった。

そこで、目が覚めた。


 ***



「………」

なんか、凄い夢だったな…。
今でも内容をはっきりと思い出せる。

よくはわからないけど…もうすぐ大石に会えるってこと?


時計を見た。
11時58分。

「真夜中じゃん…」

すぐには眠れそうにないので、そっと身を起こした。
昼間に寝てそれっきりだったので、カーテンは開いていた。


正面に見事な満月が見えた――。


「もうすぐだね…大石」

何故かはわからないけど、何がかはわからないけど。
もうすぐだって。
そんな気がした。

























とりあえず青学のみんなが出てきた。わはは。
話はいよいよクライマックスに近付いていきます。
英二さん…頑張れ!(応援)
頑張るのは自分だぜ、とか切ない励ましを掛けてみる。(泪)
でもまだ菊丸編なんだよな…これ。(汗)
まあ、他の人のは1つか2つしか話ないんですが。
それでも9人分…はぁ。(溜め息)


2002/08/30