* 月の終わり *

-the end of the moon- part.4












保健室の中には誰もいなかった。
本当なら職員室に先生でも呼びに行かなきゃいけないんだろうけど、
気にせずベッドに寝転んだ。
正直な話ほぼ徹夜状態で体がかなりきつかった。
どうせなら今のうちに寝て起きたかった。

布団の中に潜り込む。
体温が伝わるまでの間、少し冷たく感じられた。


「……」

なんか、今なら眠れるかも。

夜には眠ることが出来ない。


闇に飲まれるのを恐れるから。

虚しい目覚めを感じたくないから。

悪夢にうなされてしまうから。


夜には眠ることが出来ない。
夜には眠りたくない。

…あの人を思い出してしまうから。
一緒にいた瞬間に浸りたくなってしまうから。

そう、思い出してしまうんだ。

あの人を。
あの人といた瞬間を。
あの人と共に感じたものを。

だから、淫らな行為に身を進めてしまう。
心が満たされることはないだろうとわかりながら。

忘れたくないのに、思い出したくない。
矛盾した、でもホントの気持ち。

「……」

涙が両側の頬を伝ったのをそっと拭った。
そしたら、チャイムの音が聞こえた。
独りきりの、シーンとした保健室。


あ〜…前もあったな、こんなこと。
俺が部活中に倒れて。熱があったんだっけな。
体調悪いときって、なんか感傷的になっちゃうじゃん。
あのときも、今みたいに泣いてて。

そしたら、涙で霞んだ視線の先には……。


「…おおいし……」
「菊丸先輩…?」
「ぁ…」

二回連続で瞬きをした。
涙が目から零れ落ちた。
視界が少しはっきりした。


「…海堂」


そこにいたのは、海堂だった。

そうだよね、大石がいるわけないじゃん。
オレのバカ。

「…スミマセン」
「いや、海堂は謝ること全然ないよ…。オレこそゴメン」

オレは起き上がって赤く腫れ上がった目を擦りながら言った。
海堂は黙っていた。

とりあえず、涙は止まった。

「海堂、どうかしたの?」
「俺保険委員なんスよ。それで…ちょっと用事があって…」
「そうなんだ」

オレは必死の笑顔で言った。

「だから…見るつもりはなかったんス。…スイマセン」
「ううん、全前気にしてない!」

頭を軽く下げる海堂に、オレは手を横に振った。

話の通り海堂は何か用事があるらしく、
保険の先生の机をなにやらあさっていた。
そして一枚紙を取り出すと、なにやら書き始めた。

「……」

二人いるのに、シンとした保健室。
さらさらとペンの走る音だけが聞こえる。

…海堂は別に平気なのかもしれないけど、
オレは二人いるのに静かだという状況に耐えられなかった。
だから、独り言みたいだけど話を始めた。


「オレさー、ここに来たの授業中なんだよね。
 ボーっとしちゃってて当てられてても答えられなくて…仮病使ってここ来ちゃった。えへへ…」

…ちょっとだけ嘘だけど。
ま、全部は嘘じゃないしね。
とりあえず、話題が欲しかったんだ。
話す事、なくて。
暗い話になっちゃいそうな気がして…。

「どうせだから寝ちゃおー、って思ってたら、海堂が来たわけ」

笑い話にして、この気持ちを誤魔化そうと思った。
だから、ちょっとだけの嘘は許してね?


海堂は、用事が終わったのか、こっちを向いて声を掛けてきた。

「…菊丸先輩」
「ん?にゃに?」

オレは自然の笑顔で言ったつもりだった。
でも…。


「―――」


何も言わずに、強く抱き締められた。

「か、海堂?!」

ビックリした。突然のことで。
思わず声を上げると、海堂の腕に力がこもった。

「先輩…そんな無理した笑顔しないで下さいよ」
「無理なんて…してない!」

やっと海堂から解放される。
海堂はオレから体を離すと、こっちを見て一瞬はっとしていた。
そしてすぐ真面目な表情になった。
でも、目は悲しそうだった。

「じゃあ、どうして…」

海堂の口が重々しく開いた。
でも、一言喋ってその後は何も言わなかった。

何故かはわからなかった。
海堂はただただこっちを睨むようにして見てきた。

無意識に頬に指先を当てる。
そしたら……。


ああ、そうか。

オレ、また泣いてたんだ。
一回治まったはずなのに。

海堂の言葉が。
海堂の温かさが。
オレの涙を押し出していたんだ。


「かい…どう……オレ…」

今度はオレから海堂にしがみ付いた。
一回泣いてるって認めちゃうと、もう涙は止まらない。
オレの涙で海堂の学生服に染みができた。

「……」

海堂は何も言わず胸を貸してくれた。
休み時間終了のチャイムが鳴るまでの数分だったけれど、
オレはそれで結構落ち着いた。

『キーンコーンカーンコーン…』

「あ…」
「…じゃあ俺そろそろいいっスか」
「あ、ごめん。付き合わせちゃって」

海堂はいつもみたいにぶっきらぼうに平気っス、と言った。

「ありがとね」

海堂は背を向けたままコクンと頷いた。
優しいね、って言おうと思ったけど、
海堂ってそういうの嫌いっぽいから心の中に留めておいた。

少しだけ、心が落ち着いた。


「…次の授業から出るか」

とりあえず、あと一時間は寝ておくことにした。

























ふしゅ〜。(何)
二人きりの保健室…ベストコンディション。(何がだよ)
しかし二人とも受子で行為には至らず。(何がだよ2)
海菊?菊海?
あたしの中では二人とも受なので…。
始め海菊っぽいですが
菊が海堂に泣き付くとき絶対海堂「ぅお!?」と心の中で焦ってます。(笑)
でも表に出さない。可愛いなあv(誰)


2002/08/17