* skew position -part.10- *
「あっ…先輩!」
「……」
「先輩…っ!!」
…俺には、ほとんどの記憶が残っていない。
いや、記憶は有るのだけれど、
曇ったような感触がして、思い出そうとすると嫌な気分になる。
ただ、ひたすらに海堂のことを貪って。
嫌がって、抵抗を見せていたのに
無理やり犯してしまったんだ。
テニスで鍛えているとはいえ、所詮中一。
動きの激しさに付いていけずか、
達した瞬間、そのまま海堂は意識を失った…。
目を覚まさない海堂を、
俺は家まで負ぶって送ってやった。
とりあえず軽く身体をタオルで拭いて、
そっと服を着せて。
部活中に体調が悪くなり保健室に行ったら、
寝てしまってなかなか起きなさそうなので、と伝えておいた。
すると、遅くまでありがとうございました、すみません、
と、深々と礼をされた。
…少し心が痛んだが、
それよりも、海堂にあんなことをしてしまったことが、
この頃になって重く伸し掛かってきた。
次の日、部活中俺は海堂に話しかけることが出来なかった。
そして海堂も元々自分から話をするようなタイプではない。
俺たちは、全く会話をせずにその日を終えよう…としていた。
帰る直前、海堂がうちへ来たいといった。
帰り道は、無言だった。
海堂は俺の後ろを歩いていたのだが、
本当に付いて来ているのか不安になった。
しかし振り返るわけにも行かず。
聞こえてくる足音と、
長く伸びている影だけが、
海堂の存在を確かめてくれるものだった。
「何かな、話って」
俺の家について、部屋に入って。
俺は早速本題を切り出した。
まあ…訊いておきながら、話の内容は目に見えているが。
海堂の方を見ると、下を俯いていて表情は読み取れなかったけど、
手が震えていた。
「……っス」
「え?」
「信じられないっス…あんなことするなんて!」
海堂は立ち上がった。
俺の事を少し見下ろして、強く言った。
電気に海堂の顔が重なって一瞬顔が見えなかったが、
直に涙が浮かんでいることが分かった。
俺は内心焦ったけど、出来る限り落ち着いた声で言った。
「海堂…昨日は悪かった。本当はあんなことするつもり
更々なかったんだけど…」
そうは言ったけど…海堂の表情は変わることなかった。
いや、正確には少しだけ変わった。
もっと険しい表情になった。
そして…。
「もう先輩のこと信用できないっス!
昨日言ったことは…忘れてください…!」
海堂は俺が知る限りでは一番の大声で叫んだ。
一瞬俺も度肝を抜かれた。
数秒後、一気に罪悪感が膨らんだ。
「待ってくれ!海堂。本当に済まなかったと思ってる…」
「口では何とでも言えますよ。…先輩のこと、
本当に好きになれるかもしれないと…思ったのに…」
「かいど…」
そこまで言うと、海堂は別れの挨拶もせずに部屋を駆け出した。
残された俺は、どうすることも出来なかった。
その後一ヶ月ほど。
俺は海堂と全く会話できなかった。
近付くことすら出来なかった。
目が合うと、不自然に逸らされる。
完全に、終わったと思った。
俺は最低なことをした。
これはその仕打ちだ。
海堂は、二度と俺のところへ来ることはない…そう思った。
しかしある雨の日。
部活がなくて、俺は家でデータを纏めたりしていた。
すると…チャイムの音。
ドアを開けると、驚くべきことに海堂がいて。
「海、堂…」
「……」
予想外な客に俺は固まった。
まさか海堂から来るとは思わなかった。
動揺している俺に、海堂は傘もその場に投げ出して抱き付いてきた。
「かいど…」
「抱いてくれませんか…」
「!?」
突然の言葉。
俺の心境は驚愕の一言。
「でも、君はこの前…」
「抱いて、ほしいんス…」
そういうと海堂は俺の背中に回した腕に
力を込めた。
俺は、それに答えるように海堂の顎を上げさせ、
そして、深く口を付けた。
***
そうして気付けば、二人の関係は再開した、という事だ。
再開というよりは、始まったという感じかもしれないが。
海堂とは休みの日一緒に出掛ける、というような事はなかった。
たまにはあったけれど、ほとんどはどちらかの家に行くことが多かった。
そして…俺の家に来た場合は、ほぼ100%、ヤった。
心は、繋がっているのだろうか。
所詮、身体だけの関係なのだろうか…?
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海堂薫
2002/10/05