* skew position -part.11- *
『今日、うちに来ないか?』
乾先輩にそう言われたのは、
20分ほど前だろうか。
俺と乾先輩は、付き合っている。
付き合い始めてから、もうすぐ三ヶ月経とうとしている。
きっかけは、ある日の部活後。
呼ばれて、先輩の家に言った。
何かと思ったら…強姦された。
俺は耐え切れなくて別れると言った。
でも…結局恋人というポジションに落ち着いている。
本当に乾先輩のこと好きなのか、
と訊かれるとどう答えていいか分からない。
いや、先輩のことは間違いなく好きだ。
でも、恋愛感情としてはどうか、と言われると分からない。
身体だけの、関係になっている気がする。
元々は、俺がそのつもりだったから…。
好きな人が、いたんだ。
『かぁーいどぅ♪』
『……ウゼェ…失せろ』
『何でお前そんなカリカリしてんだよ?』
『…関係ねぇだろ』
『ちぇっ。可愛くねぇの』
『……』
いつも、ケンカばかり。
仲良くしたいという気持ちはあっても、
どうもそうできない。
素直じゃないんだ。
損な性格、自分でもそう思う。
何故か分からないけど一緒にいると楽しくて。
ケンカばかりだったけどそれも心地よくて。
俺は…桃城のことが好きだったんだ。
乾先輩に告白された時、
俺は一度断った。
何だかんだ言って…桃城のことが好きだった。
それでも仲良くなれなくて。
忘れようとして、それでOKした。
しかし突然の行為に幻滅した。それでまた断った。
乾先輩とは話さない日々が続いて。
桃城とは、やはりケンカばかりで。
それでも、楽しくて。
…一ヶ月ほど経っただろうか。
気付けば俺も2年になって。
新入部員も入ってきて。
そんな時、噂が流れた。
『桃城と、新入部員の越前は付き合っている』
言われてみると、確かに仲がいい気がした。
結構、大きな打撃だった。
今度こそ、忘れなくてはいけないと思った。
そして、乾先輩の家に行った。
抱いてほしいと、頼んだ。
…自分勝手だということは分かっていたが、
どうしようもない気持ちを、何処かにぶつけたかった。
乾先輩には失礼だが、
はっきり言って…俺は先輩のことを使っているような気がする。
このままで、いいのだろうか…?
少なくとも、俺は先輩のことは嫌っていない。
…それは変わっていない。
でもやはり、身体だけの関係のような気がする。
向こうがこっちをどう思っているかは、知っているのだけど…。
このままで、いいのだろうか……。
「…先輩」
「ん?」
「今日も…ヤるんスか?」
「きっと、そうなる」
「……」
罪悪感もあるけど、
微かに今の状況で満足しているような自分もいる。
それでも…やはり、
本当に想っている人は別の所にいるんだ…。
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乾貞治
2002/10/05