* skew position -part.17- *












「で、話ってなあに」

昼休み、俺と不二は部室にいる。
俺が話があると呼び出したんだ。

「分かってるだろう…英二のことだ」
「うん」

不二は笑顔だった。
飄々とした表情で言った。
思わず、自分の声が強くなってしまう。

「何か…しただろ」
「だから、前もそういったじゃない。君に…近付くためだって」
「触るな!!」

不二は俺に近付いてくると、
細くて綺麗な指で俺の喉元を撫ぜ上げてきた。
その手を、俺は振り払った。
不二は、「ふーん」とまた前のような小悪魔的な笑顔になった。

「ところでさ、英二のことなんて気にしてる場合?
 僕は君のことが好きだって言ったでしょ?僕的に…今凄く良い状況なんだよね」
「もうそんな嘘はやめろ。この前…お前が手塚と話しているのを聞いた」

自分の声が少し震えた。
不二のことが信じられなかった。
今まで、ずっと同じ部活で、仲間として過ごしてきて…それが、
こんな恐ろしい笑顔をするなんて。
と思ったら、また直後にいつものような曇りのない笑顔になるから、
こいつは怖い。

「あれか…聞かれちゃったんだね。…ふふっ。
 まさか君が手塚に相談するなんて思わなかった。嘘が増えたよ」
「すまない…二人がそんな関係にあるなんて知らなかった」

怒りは治まらなかったが、とりあえず謝った。
あれは、自分の責任以外何ものでもないのだから…。
と思ったら。

「まあ、本命じゃないから構わないよ」
「…どういうことだ?」
「言ったでしょ?手塚に嘘が“増えた”って。一つじゃないってこと。
 あ〜あ…これで何個目だろなー」

そんな問題大有りなことを、不二は悪びれない表情で言った。
もう、頭の中はこんがらがっていた。

「お前は…誰が一番なんだ?」
「…全員遊びって言ったら怒る?」
「当たり前だろう!」
「そんな怒らないでよ。冗談だって」

熱くなる俺に対し、不二はクスクスと笑うだけだった。
なんだか上手く振り回されてる気がした。

不二は笑うのをやめると、こっちを見て言った。

「本気になるのは、キミだけ」
「!」

顔が、一瞬引き攣った。
怒りが溢れてくるのを必死に押し込めて、出来るだけ落ち着いた声で言おうとした。
結局は、自分でも驚くほどの低い声が出るだけだったが。

「英二は…英二のことはなんなんだ……。
 お前、言ったよな、英二と…寝たと」
「正確に言うと寝たって感じじゃなかったけど…。
 でも、ホントに全部聞いてたんだね。…ははっ。大石も性格悪いや」
「お前よりはマシだ」
「まあまあ、そう言わないでよ。…確かに、僕は英二を犯したよ」
「っ!」

不二はあくまでも笑顔で。
常に飄々として。
何も悪気が無いかのような雰囲気で話してきた。

俺は、頭の中で何かが切れたような感じがして、
気付くと不二に殴りかかっていた。
しかし、それも片手ですっと受け止められてしまう。
こんな細身の体の何処にそんな力が…と思うのだが、
頭に完全に血が上ってる俺にはもう何も考える力は残っていなかった。
ただ、不二のいうことを聞くしかなかった。

「まあ、そう熱くならないで聞いてよ。…あのね、英二を犯したのも…
 憎かったんだ。君の隣に居るのを当たり前と思っている彼が。
 だから、壊してやりたかった」
「不二!訂正しろ!!」
「しないよ。だって本当のことだもん」

頭の中がぐるぐると回っているような感じがした。
胸の奥から何かが込み上げそうなのを必死に抑えた。
その場に立っているのが必死だった。

不二の言った言葉をそのまま受け止めるのが嫌だった。

「本当は…似たような内容を全員に言ってるんじゃないのか…。
 手塚には手塚が本命だと言っていたし…そうなんだろ!?」

そうだ。
自分の言った言葉に自分で納得した。
きっと、不二はそうして全員を騙して…。
でもそうだとしたら何が目的だ…。
やはり、どこかに本命が居るはず…?

考えていると、不二は言ってきた。

「ああ、あれね。自惚れに聞こえるかもしれないけど、
 手塚は本当に僕のことが好きなんだ。
 ああ言っておけば手塚は納得する。僕も手塚といて悪い気はしない。
 嘘も方便って言うの?ただ、少し嘘を吐くだけで丸く収まってるんだ。
 君が、余分な口出しをしなければね」

長い文章を、さらっと言ってみせた。
不二はすんなりと言ったが、
冷静に考えれば冷静に考えるほど恐ろしい内容だった。

こいつは…人でない。
そんな思考さえも働き始めた。

「お前は…悪魔だっ!」
「なんとでも言えばいいよ。でも、本気なのは君だけだから」
「!!」
「なんなら証明してあげようか、僕のホンキ」
「断る!!!」

制服のボタンに手を当てた不二を見、
俺は一言言い残すと部室を後にした。
バンとドアを閉めると、少し手がジンとした。

さっさとそこを後にしたかったが、
足が思うように動かなくて。
少し、震えていたのかもしれない。
俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


そして、ふと気付いた。
さっきの話が全て本当なら、
不二が英二を犯したのは、英二が憎かったから。
英二が憎かったのは、本命…である俺と仲が良かったから。
つまり…

間接的に英二をあんなにしたのは、俺自身?



悲しみ、憎しみ、苦しみ、怒り。
全てがぐるぐると渦巻いてきた。


もう、精神崩壊寸前だ……。
























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2002/12/17