* skew position -part.2- *












予想通り、次の日の英二は不機嫌だった。
俺は愚か、他の部員にすら話し掛けようとしない。
それはみんなも察していた。

英二が不機嫌な理由は俺と見積もったらしく、
何かあったのか、と皆訊いてきた。
俺は、わからない、と言っておいた。

だって、本当にわからないのだから。


中で、不二だけは英二に話し掛けていた。
同じクラスということで仲も良いし、
不二なら英二の気持ちを取り持って話してやってくれてるのかな、
と俺は少し安心した。

しかし、英二は不二に何か耳打ちされたかと思うと、
一気に青褪めてその場を駆け出した。


…なんだ?
不二は、何かを知っている…?


部活が終わったあと、今日は俺は不二に話があると言った。
なに?と不二はいつもの笑顔で訊いてきた。
周りには他の部員も沢山いたので
とりあえず部室の裏へ回り込んだ。


「…なに?こんな所に呼び出して。愛の告白?」
「馬鹿を言うな」

不二の言っている事は冗談だとわかったが、
自然と口調が強くなってしまった。

「どうしたの、熱くなっちゃって。大石らしくもない」
「……」

確かに、不二の言う通りだった。
少し苛付いていたのかも知れない。

英二の気持ちがわからないこと。
英二が不機嫌だということ。
その原因が、目の前にいる人間だと言う可能性。
…自分かもわからないが。


「英二に…」
「ん?」
「今日英二に何を言った」

心なしか声が震えている気がした。
無意識に苛付からきている怒りが篭っていたのかもしれない。

「別に、どうってことない日常会話さ」
「だったら青褪めて走り去る理由がない!」
「…さすが大石、鋭いね」
「はぐらかすなよ」
「……」

俺が言うと、不二は無言になって眼を開いた。
鋭い眼光に睨まれる。
それに怯まないように、言った。

「英二は…今きっと何かで悩んでいるんだ。
 その原因をお前を知っているのかは知らないが…
 傷を抉るような事はしないでやって欲しい」

そうだ。英二はきっと何かで悩んでいるんだ。
不二に言うと同時に、自分にもそう言い聞かせた。

「優しいんだ、大石は」
「当然の気遣いだろう!?」
「……」

少し声が大きくなってしまった。
部室の中に聞こえていないか、と思ったが
中はいつもざわついているし平気だろう。

などと考えていると、不二が低く言い放った。

「僕が英二に構うのは君に近付きたいからだ、って言ったら?」
「…どういうことだ」

気持ちを落ち着かせて言ったつもりだったけど、
声には自然と力が篭ってしまった。

「英二に何かがあれば、当然君はそれを気にする。
 今回もそうだろう?現に今僕は君と話をしている」
「…意図が読めない」

不二の言っていることがわからなかった。
いや、わかりたくなかった。

「…君に近付く為なら人を傷つけることさえするよ、僕は」
「ふざけるな!!」

今度こそ、本気で叫んだ。
カッと頭に血が上った。

なんなんだ、こいつは…。
一体何を考えている!?


熱くなる俺とは対象に、
不二は落ち着いた表情で言った。

「ふざけてなんかいない。僕は本気だよ。
 実はずっと君を狙ってた…英二が邪魔だったんだ」
「っ!!」
「それじゃ、そういうことだから。もういいよね?」

返事をする前に、不二は行ってしまった。
俺は暫く固まっていた。



部室に入ると、居たのは部誌を書いている手塚だけだった。

「大石、どこに居たんだ」
「すまない、手塚」

俺は急いで着替えると、
手塚の横に座った。

「もうほとんど書き終えてしまったぞ」
「悪いな、本当に…」
「……」

手塚は、俺の顔をじっと見てきた。
何か訊きたげな表情で。

「…訊きたいことがあるのか?」
「正直な話、ある」
「……俺と英二のことだろう?」

言うと、手塚は右手でついと眼鏡を上げた。

「……ああ。明らかに、最近のお前たちはいつもと態度が違う」
「手塚にはバレてたか。みんなは今日英二が不機嫌だってことぐらいしか
 疑問に思ってないみたいだけど」

俺は照れ笑いをした。
そして、一つ息をついて全てを話すことを決心した。

「実は、な。俺は何も知らないんだ。向こうが一方的に避けてる感じで。
 昨日訊いてみたけど…話してくれなかった。
 でも、何か悩みがあるみたいなんだ。それで、その原因を、
 不二が知ってるような雰囲気だったんだ」
「……」
「だから、不二に訊いてみたんだよ。…そしたら、突然、
 英二の傷を抉るようなことしてるのは、俺に近付く為だとか…」
「何だって!?」

ずっと黙って話を聞いていた手塚が、
そこに来て突然声を張り上げた。
手塚が感情的になるのは珍しかったから、
俺も少々驚いた。

「…可笑しな話だろう?英二に構えば、必ず俺は近付いてくるからって。
 そんなだったら、直接何か言えばいいのに…。
 とりあえず、英二の悩みの原因が不二だとは言い切れないけど、
 確実にその悩みの正体を不二は知っている」
「…本当に不二はそんなことを言ったのか?」
「ああ。俺も…信じられなかったよ」
「……」

そういうと、手塚も固まっていた。
確かに、信用し難い話だもんな。

「…手塚」
「あ、ああ」

声を掛けると、手塚はまた部誌にペンを走らせ始めた。
俺はその左手をずっと見ていた。
























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2002/09/15