* skew position -part.3- *
…外は雨が降っている。
朝練はもちろん中止だ。
しかし、俺と不二は部室にいる。
「…不二」
「なに?手塚」
「…俺がこんな所にお前を呼び出した理由をわかっているか」
「ん〜…さあ」
不二は些かとぼけた表情で言った。
自然と眉間に皺が寄ってしまう。
「手塚、表情固いよ」
「五月蝿い」
「少し力抜きなよ」
そう言うと不二は背伸びをして俺の首に腕を回し、
頬にキスをしてきた。
そしてクスクスと笑った。
俺は、笑う不二に言った。
「…昨日大石から相談をされた」
「――」
不二は笑うのをやめた。
眼が開いて、少し固い表情で見上げてきた。
その口から出た声は、冷たい感じがした。
「……なんて?」
「お前が、菊丸の悩みを知っているだとか。
それをネタにして大石を自分に近付けているだとか」
「…へぇ」
「本当なのか!?」
柄にもなく自分が感情的になっているのがわかった。
不二の両肩を両手で押さえて訊いた。
しかし、不二は口を詰むんだままだった。
…自然と溜め息が零れた。
「なんてお前はふしだらなんだ」
「…そぉ?」
あくまでも笑って通そうとする不二に、
俺は言ってやった。
「お前はこの前菊丸を抱いたと聞いた」
それには、流石に表情を固くしていた。
無言になって、眼を大きく見開いていた。
「…知ってたんだ」
「ああ」
暫らくしてから不二は口を開いた。
その顔には、笑みが浮かんでいた。
「遊びだったんだよ、ちょっとした」
「遊びでそういうことをするものではない」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
「その辺がふしだらだと言うんだ」
不二はベンチに座ると、
俺も隣に座るよう招き入れた。
「大丈夫。本気で好きなのは手塚だけだから…」
「本当か?」
「うん」
不二は笑顔で言った。
とりあえず、今はこの言葉を信じるしかなかった。
「俺には…お前しかいないんだ」
「僕も…手塚のこと愛してるから」
そういうと、首に腕を回してきた。
唇に、自分の同じものを合わせる。
「んっ」
幸せそうな、声が零れる。
堪らず、不二の学生服のボタンに指を掛けた。
「手塚、もう30分もしないうちに学校始まっちゃうよ…」
「ならそれまでに終わらせるまでだ」
「ぁっ…」
首筋に唇を落とせば、
甘い声が零れる。
この瞬間は、信じられる。
確かに、この腕の中の人物が自分だけのものなのだと…。
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大石秀一郎
2002/09/15