* skew position -part.21- *
オレは大石に別れを言った。
そして、逃げるようにして走った。
前も見ないで。
目は開いたって、霞んでしまって
どっちにしろ何も見えなかったけど。
頭の中を変な感情がぐるぐる巡る中、ひたすら駆けた。
これで…良かったんだ。
この涙も全部、過去を洗い流すためだ。
思い出が多すぎたから。
楽しすぎたから。
その分、沢山涙が出るんだ。それだけ。
これが渇けば、何もなかったかのようにさっぱりしてるはず。
雨も、いつかは蒸発してしまうように、
想いも、いつかは無くなるんだ。
もう…忘れるんだ。大石のことは。
…ちゃんと前を見るべきだった。
走っていると、人に当たってしまった。
「あ、ごめんなさ……!」
そこに居た人を見て、オレは血の気が引くのが分かった。
逃げたかったけど、動けなかった。
そこに居たのは、不二だった。
「やあ、どうしたんだい英二、そんなに涙を流して」
「不二には…関係ないだろ」
「そうかもね」
以外とあっさりと流された?
と思っていると…。
「君が大石と何かがあったとしても、僕には関係ないもんね」
「知って…たの!?」
「それとなくね。…ふふ、上手くいったみたいね」
「なに、それ…もしかしてお前、大石に何か…」
ちょっと待ってよ、それじゃあそれじゃあ……。
「よく分かったね、その通りだよ」
「っ!!」
不二の声を聞くたびに、足が震えそうになった。
というか、少し震えていた。
それを抑えようとズボンを掴んだけど、やっぱり止まらなかった。
初めての経験。
突然の恐怖。
激しい痛み。
苦い記憶。
この前までは、あんなに良い友達だったはずなのに。
どうして、どうして……。
「僕の気持ちにはもう気付いてるんでしょ?この前から」
「……」
「引き裂きたかったんだ、君たちの仲を」
不二は、オレのことが好きだった?
なんで…だったらこんな辛い目に合わすの。
大石との仲を引き裂こうとした?
ひどい…酷すぎるよ。
今、オレは…不二のこと怖いんだって!
「不二…もう、オレの傍に…来ないでぇ…っ」
「あんまりだなぁ、英二。ま、そう言われても
仕方のないことを僕はしたけどね。自覚はある」
「………」
不二はオレのことが好きで。
オレも不二のことが好きで。
だったらいいじゃない、友達同士で。
…本気で好きだから、どうせ友達止まりなんだったら…っていう考え?
オレは唇をぎゅっと噛んで下を向いた。
今にも涙が溢れそうだった。
「…英二」
「な、に…」
上から降ってくる声に、オレは下を向いたまま答えた。
すると…。
「大石に訊かれたんだ。最近の英二の様子がおかしいけど何か知らないかって」
「っ!?なんて…言ったの…?」
「僕は君のことホントウに愛してるから、真実を教えてあげるよ」
「……」
オレのことは本当って、本当じゃないのでも居るのかよ…。
「僕は大石に、“君が好きだから二人の仲を引き裂きたくて
英二を絶望に落とした”って言ったんだ」
「な、なにそれ!オレに今言ったことと正反対じゃん!?」
ちょっと待って…大石には大石が好きだからって言って、
オレにはオレが好きだからって言って…って、それって、どういうことだよ!?
どれが本当なの!?
「正反対じゃないよ。僕は君のことが好きだから、
と大石に伝えることで二人の仲はバラバラ、でしょう?」
「じゃあ、オレに言ってることこそ本当の本当にホントウだな?」
「もちろん」
「違ったら…針千本って言っても?」
「どうぞ。約束する」
「……っ」
じゃあさ…ってことは、大石のことだから、
きっと、責任感じちゃって……。
もしかして、大石はそのこと結構前から知ってた!?
それで…オレのこと本当は嫌ってないのに嫌ったふりして…。
二人で同じことやってたの、オレ達!?
「どっちにしろ、大石には嘘吐いてんじゃん…」
オレは凄い混乱した。
混乱した頭を落ち着けるために、
負け惜しみのように、オレは言い返した。
すると、不二はふふっと小さく笑うと…
「…僕はね、本当に欲しいものを手に入れるためなら、人をも傷付けるんだよ」
「!!!」
光の宿っていない暗い暗い漆黒の闇のような眼で、言ってきたんだ…。
「不二の……バカっ!!!」
思いっきり叫んで、オレは竦む足を必死に動かして逃げた。
オレのこと本当に好きなら、何でこんなに苦しめるの。
もう、不二のことがよく分からないよ…。
でも、不二の言ったことが本当なら、
大石…大石は、オレのこと……?
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不二周助
2002/12/18