* skew position -part.6- *
「……」
エージ先輩が部屋から出て行って、約10分間。
オレは何もせず、
ただボーっとしていた。
…まずいよなぁ。
エージ先輩は大石先輩と付き合ってて。
それが…こんなところ見られちゃ…。
悪いことしたな。
オレもさ、フォローには入ろうとしたんだぜ。
でも…墓穴掘っちまいそうで、やめた。
あの状況じゃ、何言ってもだめだよなぁ…。
…オレたちがヤってたことは、事実だし。
「…たまんねぇーな、たまんねぇーよ」
思わず呟いた時、
階段からゆっくりとした足音が聞こえた。
エージ先輩が帰ってきたのか。
上手くやったかな…。
『ガチャ』
「エージ先輩、どうで…し……」
思わず、言葉の途中で区切ってしまった。
エージ先輩は、ボロ泣きしていた。
涙を流していたかという事実は
雨で全身が濡れていたのでわからなかったけど。
でも、しゃくり上げていたから。
間違いなく、泣いていた。
「…エージ先輩、元気出してください」
「……」
「とりあえず、体乾かさないと…」
オレは立ち上がってエージ先輩に近付いた。
タオルはどこにあるのかなーなんて考えていると、
エージ先輩は倒れるようにオレの胸に飛び込んできた。
「エージせんぱ…」
「桃ぉ…っ…」
そのまま、暫く泣いていた。
どうやら…予想通り相当悪い方に
進んじまったみたいだな。
胸の中で小さく震えるように泣くエージ先輩を見て、
オレの中に一つの考えが浮かんだ。
それは…正しい決断だったわからない。
でも、今自分の腕の中に居る小さな存在を、
支えてやらなきゃって思ったんだ。
「エージ先輩…俺と付き合いませんか」
上下に振られる頭を確認して、
オレはエージ先輩をまた更に強く抱き締めた。
自分が何を考えているかわからなかった。
目の前で自分に体を預けている人は、
別の場所に想い人が居る。
そして、オレも…。
それでも、守ってやりたいって思ったんだ。
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菊丸英二
2002/09/16