* skew position -part.8- *
***
「…なあ海堂」
「あん?」
「うおっ、そんな怖ぇ顔すんなよ」
「ウルセェ……なんか用かよ」
「なあ、なんでオレらってこんなケンカばっかりなんだと思う?」
「知らねぇよ。てめぇが仕掛けてんだろが」
「そんなことねえよ!オレはいっつもマムちゃんに
愛情をた〜っぷり込めて話し掛けてるだろ?」
「…そこら辺がケンカ売ってるって言うんだよ」
「んだと!?…ていう展開か。ったく、何でだろうなー」
「……フン」
「…素直じゃねえな」
「てめぇだろ」
「……」
***
「……桃?」
「え?あ、スンマセン」
何やってんだオレ、突然昔のことなんて思い出して…。
……オレとエージ先輩は、ベッドの上にいる。
因みに、オレの家。
二人でベッドの上にいるっていうことは、
まあ、要するにそういう行為に至っているわけで…。
このような事になったのは、これで三回目だ。
一回目は、未遂で終わったエージ先輩の部屋でのこと。
それが原因で、エージ先輩は大石先輩と別れて…。
それで、オレたちはこういう関係で続いているのだけれど。
二回目は、誰もいない部室。
部活がないとき、昼休みに。
エージ先輩に、呼ばれたんだ。
クラスで何かあったんだな…。
そして、今。
言っておくけど、オレから誘ったことは一度もないぜ。
…襲ったこともねぇよ。
いつも(といってもまだ三回目だけど)エージ先輩に、
話があるって言われて。
初めてのときも、そうだった。
やっぱり、色々悩んでるからだろ。
相談に乗ってくれって言われて。
それで…誘われて…ヤっちまったってか。
何もかも忘れちゃいたいって気持ち、
わからなくもねぇからなぁ……。
寄り縋る場所が欲しかったんだな、
どこでもいいから…。
そういうオレは、どうなんだろな。
…オレも、縋り付いてんのかもしんねぇな…。
そんなことを考えながらも、オレはチャックを下ろし、
ベッドに寝ている裸のエージ先輩を向き直した。
そしてエージ先輩の上に、四つん這いのように覆い被さる。
すると、エージ先輩は弱々しく声を上げた。
「桃…」
「…なんスか」
「オレ…やっぱ大石のこと忘れられない…。
桃のこと…真っ直ぐ見れないよ……」
エージ先輩の目の端には、
真珠のような雫が浮かんでいた。
オレは、それをそっと舐め取った。
身体が小さくビクンと震えた。
オレは顔を離し、訊いた。
「もう、続きはやりたくないっスか?」
エージ先輩は首を強く横に振った。
涙はポロポロと流れ出していて、
声も少し掠れていた。
「そういうわけじゃない…桃のこと嫌いじゃないし…でも…
どうしても…大石のことばっか、考えちゃう…」
「……」
「ごめん……桃には悪いって…わかってるけど…っ」
エージ先輩は目の辺りを片腕で隠して、
また更に泣いた。
オレはその腕をどかすと、
一つ、キスをした。
「……もも?」
「エージ先輩。大丈夫です…気にしないで下さい。
だって…実は、オレも…」
――海堂のこと、好きだったんス。
そう、伝えた。
オレの、本当の気持ちだ。
「嫌っスか?他の人のこと想ってるヤツに抱かれるなんて」
エージ先輩は首をまたそっと横に振った。
そして、腕を伸ばしてオレの首に巻き付いてきた。
「そんなこと…ないよ」
その言葉を確認して、オレはまた一つキスをした。
そして、身体を進めていった。
皮肉なもんだ。
お互い愛するものと結ばれないで。
それでも、想いは消えなくて。
思いを埋める為に、
傷を舐め合ってたとでもいうのか…。
オレたちの行為は、虚しくも続いた。
満たされることはないとわかりながらも……。
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乾貞治
2002/09/25