* THE BLIND GOD -part.10- *












オレは昨日学校を休んだ。
行きたくなかったから。

オレは今日学校へ来た。
行かなきゃいけない理由が出来たから。


「あ、英二おはよう」
「おはよー、不二」
「大丈夫なの?突然休んだから驚いたよ」
「うん。だいじょびだいじょび〜」

オレは顔の前でピースを作ってみせた。
不二は安心した顔をして、肩を撫で下ろした。

なんだか懐かしいな、不二のこの笑顔。
たったの一日ぶりなのに、不思議。


「あ、英二だ〜」
「おっす」

後ろから聞こえた、の声。
オレは頑張って笑顔で対応した。

うん、笑顔。
なってるはず。

「良かった…英二が笑ってくれて」
「え?」
「もしかしたら、私の所為でかな…とかちょっと不安だったし」

は苦笑しながらそういってきた。
ちょっと申し訳なさそうだったけど、笑顔で、良かった。
心配掛けたくなかったから、には。

「全然関係ないから!気にしないでよ」

まあ、ちょっと関係してるといったら…その通りなんだけど。
でもオレの中で大きいのは、、よりも、大石の――。


「英二、昨日取ったノート見る?」
「あ、見る見る〜」

オレは不二の机に駆け寄った。
は、廊下に居なくなった。

「不二ってば、宿題は見せてくれないけど休んだ日のノートは見せてくれるんだね」
「…そういうこと言うともう見せてあげないよ」

言いながら、不二はオレからノートを取り上げた。
オレは焦って否定の言葉を並べる。

「あー!うそうそ!いよっ。不二最高!天才!」
「分かったから」

笑いながら、不二は机にノートを戻してくれた。
なんだかんだいって、いいやつだよな。不二は。


ところで、は廊下に出て何をし…。

「――もしかしてっ!」
「英二?」
「不二ゴメン!ノートまたあとで貸しちくりっ!」


オレは凄い勢いで教室を飛び出した。
もしかすると、は大石のところに――。

「ん、どうしたの英二?そんな焦って」
「あ……」

は5組の教室から出てきた。
きっと、一番仲良しのとかいう子に会いに行ってたんだ。

「いや、別に、なんでもにゃ…あはは」
「? 変なの」

は不審な目でオレを見てきたけど。
すぐにいつもの表情に戻っていたので問題なし。
そのまま流れで、オレたちは世間話をしてた。

そんなの表情を見て…思った。
不二はあんなに懐かしく感じられたのに、はそんなこと無い。
なんでだろ?

頭の中で繰り返し思い描いてたから…?多分違う。
多分、きっと、昨日見てしまったから――。

「あ、あれ大石君?」
「――」

が視線をやる先。
廊下のずっと向こう。そう、丁度2組の前辺り。

大石が、立ってた。

しかもこっちを見てきていたもんだから、目が合った。
一瞬頬がピクってするのを感じたけど、平静を装った。
視線を一度に戻してから、大石のほうを向きなおして叫ぶ。

「にゃんだよアイツ。用があるならくればいいのに。
 おーい、大石ぃー!!」
「あ、ちょっと英二!」

こうなったら、やけだヤケ。
オレ自身も本当は今あんまり大石とは話したくないんだけど…。
でも、さ?

「どうしてわざわざ呼んだの!」
「だって、オレがを独り占めすると大石がヤキモチ焼くだろ」

そうだよ。
大石のやつ。
この前オレにあんなこといっておきながら…。

昨日見たんだからな、オレ。
二人が喫茶店で楽しそうに笑ってるの。

「なに、それ」
「え?」

オレの言葉に対して、は疑問符を浮かべてきた。
そして直後に口から出てくる言葉を、オレは予想することなんて出来なかった。

「だって、大石君が好きなのは私じゃなくてエイ……あ」
「えっ!?」

なんだって…?

大石君が好きなのは私じゃなくてエイ……の続きって、
どう考えたってエイジしかないじゃんか!?

なに、知って…た?
大石がオレのことを好きだって言ったこと?

その前に何。
やっぱり大石が好きなのはじゃなくてオレ?
昨日のは何かの勘違いで…。

そうだよ。オレの考えが浅はかすぎた。
いくらなんでも、気持ちを告げてきた翌日に好きな人が変わるとも思えない。
少なくとも大石はそんなやつじゃない。
確かにオレはその想いを拒否してしまったけど。
だから、一日で乗り換えるなんて…そんなの考えられない。


つまり、昨日のは何かの間違いで。

大石が好きなのはやっぱりオレだと。

それはオレの目の前で焦っているを見れば歴然で。



ってことは…何?




「何、おまえ、知って……!?」



は何も言い返してこなかった。
唇を強く噛んで。

つまりは、肯定。


そんな…そんなそんな!?


オレが折角元気なふりしてるのに!

フラれて傷つかなかったわけが無い。
でも好きだから、心配は掛けたくないって思って。

だから、無理して笑顔、作ってたのに…。


何、知ってた!?



「どういうことだよ、それ…」
「あ…ごめ、あた、し……」

そのとき既に、大石はオレたちの話が聞こえるところまで近づいてきていた。

怒りに近い感情が渦巻いたまま、のことを睨むオレ。
怯えた表情で、口を振るわせる

本当はにこんな表情したくない。
でも、止まらないんだ。


「―――っ」
「あっ!」


大石がすぐそこまで近づいてきて、はついにその場から駆け出した。
追いかける間もなく、階段を凄い勢いで下っていった。

オレは後ろを振り返ると、気付かないうちに大石に叫びついていた。


「大石のバカっ!もう知らない!!」



冷静に考えると、それは宛違いな怒りだったのかもしれない。
でも、ぶつける先が見つからなくて。
オレは無意識に叫んでいたんだ。
ただ呆然とする大石を尻目に、オレは自分の教室に飛び込んだ。

不二がいた。飛びついた。


「英二…?」
「不二ぃ…!」

涙が出てきていることに気付いた。
クラスのみんなが見てるような気もしたけど、確認しなかった。


ひたすらに、不二の胸の中で涙を流した。


嫌い…嫌い……みんな大嫌い。





もうイヤダ。






















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2003/08/07