* THE BLIND GOD -part.5- *
「………」
なんだかボーっとしている帰り道。
さっき、英二に告白された。
断ったんだけど、ね…。
でも仕方ないよ、ね?
私は大石君のことが好きで。それがどうしても譲れない。
片方を立てれば、片方が立てなくなっちゃうんだもん。
「恋って意地悪なものね」
恋は盲目、そんな言葉を思い出して苦笑した。
歩きながら、考えた。
これって、私大石君に告白するべき?
だって、だよ。
私は英二に告白されたわけじゃん。
向こうも、きっと色々と悩んだと思うんだよ。
こうなることも…きっと覚悟の上で。それで言ってきたと思う。
私も、勇気出さなきゃいけないと思うんだ。
「(……よし!)」
決めた。
明日大石君に告白する。
笑うことになるか泣くことになるかは分からないけど。
私のことを想ってくれてる英二のためにも…そうしなきゃいけないと思う。
それで上手くいったら、
逆に英二に申し訳ないような気もするけど。
ま、それはまた別の話。
私は粉砕覚悟です。
**
翌朝。
緊張している自分が居るわけです。
だって、ねぇ?
一世一代のビッグイベントだよ!
…ちょっと大袈裟かもしれないけど。
お陰でいつもより早く起きちゃったし。
学校にも15分ほど早く着いて。
大石君は…まだ居ない。
さて、シチュエーション作りはどうしたものかね。
うーん…。
「何か用でもあるのかい?」
「ごわぁっ!!」
突然後ろから声を掛けられ、
それはもう心臓の飛び出るような思い。
「……どうした?」
「あ、おはよー大石君」
「…おはよう」
ヤバイヤバイ。
大石君もなんだか不審に思ってますよ!?
み、ミスった…。
だって、突然声かけられるなんて…!
「うちのクラスのやつに用があるんだったら呼ぶけど?」
「いや、そういうわけにあらず」
「そうか。ならいいけど」
やっぱり優しいな、大石君。
……ってそうじゃないだろ自分!
これってどう考えてもチャンス…だよね?
「あの、大石君!」
「ん?」
「その…私が用があるのは大石君なの」
教室に入りかけたところを引き止めた。
有り得ないほどに心臓がバクバクいってます。
脳に直接響いてる。
顔もちょっと赤いかも…マズイ。
てか、ここで言うのか!?
まだ朝早いから人は少ないと言えども、
勿論それなりには居るわけで、
そして更にこれから増えると推測されるわけで…。
「ん?どうした」
「えっと…その……」
「…ここで言い難いことだったら場所を移すけど?」
「あ、ありがとう…」
…優しすぎです、大石君。
なんでこんなに優しいんでしょう。
顔を上げられない私。
大石君の足だけを追って歩いた。
辿り着いたのは、屋上。
朝早くには、ここには誰も居なかった。
開けた空と、吹き抜ける風が心地好い。
その心地好さに身を焦がしていると、
大石君から話し掛けてきた。
「それで、用ってなんだい?」
「あ、あの…」
一大決心をしたものの、いざこうなると弱い。
スカートの裾を強く掴んでる。
私の緊張してるときの癖だ。
手を離して、掴んでた部分をぱっぱと払う。
ああ、こうやって無意味に手を擦るのは動揺してるときの癖だ。
と、まあ興奮している気持ちとその奥には
妙に冷静な脳が客観視しているわけで。
「もう、こんな雰囲気で分かってるかもしれないけど…」
ちょっと声が震えてる。
でも流れに任せてしまおうと思います。
小さく咳払いしてから、言った。
「私、大石君のことが好き」
その言葉を発した後は、少しの沈黙があった。
初めは大石君の目を見ていたけど、
余りに長い静寂に思わず目を逸らす。
真っ直ぐな視線、大好きだけど、
時によりとてもクルシイ。
「付き合ってクダサイ…」
頭を下げた。
顔が赤いの分かる。
心臓バクバク言ってる。
全身震えてる。
涙滲んできました。
イエスでもノーでもいい。
早くこの沈黙を崩して欲しい、と思った。
そして、返事。
「ごめん」
言われた直後、言葉の意味が認識できなくて。
覚悟はしていたはずなのに、いざ言われると辛すぎて。
気付くと私は涙を流していた。
「気持ちは嬉しいけど…だけど、応えられない」
言われる言葉に対し、
私はただただ首を上下に振るだけだった。
涙でぐしゃぐしゃで、情けない顔だろうなぁ。
思っていると、すっと手が伸びてきた。
ハンカチ。
見上げると、大石君は苦笑した。
「なんかキザっぽいかな。でもごめん。俺にはこれぐらいしか出来ないよ」
私は首を横に振って、ハンカチを受け取った。
ありがとう。そんな貴方が好きなのよ。
心の中でそう呟いて。
少ししゃくり上げながらだけど、
私は強がって笑顔で言った。
「こうなるの、なんとなく分かってた。
きっと大石君には、お似合いのいい人いるんだろうね」
「…お似合いかどうかは、分からないけどな」
言い返してくる大石君の表情は、苦笑に近い笑顔だった。
なんか余分なこと言っちゃったかな?
でももういいや。粉砕したし。ヤケだヤケ。
「その人って、どんな人?私の知ってる人?」
訊くと、大石君は困った顔で空を見上げた。
答え難いこと、分かってる。だから訊いた。
私だって悲しいんだもん。
ちょっとぐらい仕返ししたって、いいでしょ?
軽く溜め息を吐くと、大石君は言ってきた。
「知ってるも何も、よーく知ってる人だよ」
よく知ってる人??
誰だろう。
?
いや、は大石君と係わり合いになったことが全く無い。
接点が全く無いのに好きになるってのも微妙でしょ。
大石君は簡単に一目ぼれするタイプに見れないし。
きっとじっくりと愛を深めているタイプじゃない?
ってことは誰だ。
私がよく知ってて大石君も深く関わってる人…。
うーん…分かんない。
まず私と大石君が関わってるのってどこ?
学級委員会。
…他に何かある?ない。
誰?
冷静に考えてみよう。
私が今クラスで一番仲良い人誰だ?
うーん…女子より寧ろ英二の方が仲良い気がする。
英二?
「……」
「さあ、そろそろ教室戻った方がいいだろ」
「あ、ごめんね!」
ボーっとしてた私は屋上のドアへ歩き始めていた大石君の声で目が覚めた。
ちょっと鼻は赤いかもしれないけど、涙は止まった。
後は花粉症だとか言っとけば誤魔化せるでしょう。
「ハンカチ洗って返すから」
「ああ、悪いね」
普通に会話できて安心した。
ちょっとだけ心は痛むけど、
でも逆に今日のことで近くにこれた気もするから。
ところで、さっきの疑問。
大石君の好きな人って……。
「(ううん、そんなわけないよね)」
今流行りのボーイズラブじゃあるまいし。
そう考えながら、大石君の背中を追ったまま
階段を一段一段下った。
Next criminal
→Eiji Kikumaru
2003/07/05