* 鳥ハ自由ヲ求メテ空ヲ飛ブ *
ちょっとした会話を交わした後。
大石。
「英二、その…訊いていいことか分からないけど…」
いつも以上に真剣で、張り詰めて。
オレは砕けた喋りを返す。
「ん、にゃに?遠慮したらいかんよ」
そっか、と大石は苦笑うと。
もう一度息を呑んで。
「どうして、飛び降りたんだ」
いつかは来ると思っていたこの質問。
いざ訊かれると、何も出てこない。
何も答えないで居ると、大石は引き攣った顔をオレに寄せて。
心配そうな、気の狂いそうな、そんな表情で。
「わざとじゃ…ないよな?足を滑らせたとか……」
オレは首を横に振る。
「別に、突き落とされたって訳じゃないだろ?」
違う。
そう小さく答えた。
「じゃあどうし……」
大石が言葉の途中。
オレははっきりそっちを見据えて。
いつかは伝える真実だもん。
………シンジツって、ナニ?
「大石…オレね」
とりあえず、これは事実。
「死のうと、思ったんだ」
「!」
言った後の沈黙が痛い。
えっ、とか、そんな、とか。
なんか反応してくれればいいのに。
いっそのこと、花瓶がパリンと割れるとかさ。
そんなドラマみたいには上手く行かないかもしれないけど。
「…冗談、だろ?」
漸く口を開いた。
だけどその質問に対して、オレは首を横に振る。
「信じたくないなら信じなくたって良いよ。でも、ホントのことだから」
大石は首を横に振った。
オレのことを両腕で包んだ。
怪我のことを気にしてるのか、
力の篭らない、妙に遠慮がちなものだったけど。
「どうして、そんな……!」
「……ごめん」
謝るなよ、と呟く大石。
少し涙声だった。
抱き締められて、相手の表情は見れないから。
大石がはっきりと泣いていたのかは、分からないけど。
オレが曇り無き笑顔だったってことも、向こうは分からないはず。
両者平等。
「悩みがあるなら、相談してくれれば良かったのに…」
「話して解決することだったら、オレもそうしてたよ」
オレがそう言うと、大石は体を離した。
両手は肩に当てたまま、顔だけを正面に揃えて。
「解決しないことだったとしても、心の負担、少しでも軽くしてやりたい」
やめてよ。
「英二の悩みだったら、俺も一緒に悩みたい」
やめろって。
「それじゃあ…ダメかな?」
そんな風に言われたら、頷くしか無いじゃん。
堪えていたものは、ついに零れる。
「大石……っ!」
自分から抱き着いた。
動く方の右腕で抱き寄せて。
顔を胸の中に押し当てて。
そっと背中に回された腕の体温を感じた。
愛しさの余り。
全ては零れた。
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2003/10/15