* 鳥ハ自由ヲ求メテ空ヲ飛ブ *
「木曜日、だったかな。放課後さ、なんか部活行く気でなくって」
大石は無言で聞いていた。
「それで、なんとなく屋上へ行ったんだ」
屋上に上がったら、空が広くて。
飛んでいる、鳥が見えた。
誰でも一度はこう考える。
鳥は、いい。
自由だ。
翼を広げればどこへだって飛んでいける。
オレも――――。
気付いた時、オレはフェンスを乗り越えていた。
まだ両手はしがみ付いてる。
足も付いてる。
本当にやるの?
………。
冷静に考えたら駄目な気がした。
勢いに任せよう。
オレは、鳥と一緒。
さよなら。
一足先に行くよ。
オレは、自由になる。
―――――――――………。
気付いたら、ベッドの中、だった。
「死に損いなんだよ、オレ」
いつもだなら必ずある相槌が来ない。
「下に偶然木があったりしなかったら、確実に死んでたって」
微妙な笑みを見せるオレ。
大石は怒った顔も悲しそうな顔も笑った顔も、何も見せない。
ただ、真っ直ぐ視線を当ててくる。
暫くして口を開いた。
言葉は出てこない。
何を言うのか、と待つこと数秒。
「状況のことはよく分かった。でも…俺の質問に答えてないぞ?」
「…っ」
自分の顔が強張るのが分かった。
そうだよ。
オレはまだ話してない。
伝えていない。
「普段の英二だったら…そもそも、部活休んで屋上になんて行かないだろ?」
やめて。
やめてよ。
これ以上オレを追い詰めないで。
「悩み、あるんだろ?」
大石が言い終わるのとどっちが早いか。
オレは大石の手を掴んで、一度は止まった涙を零した。
それでもやっぱり、オレの口からは悩みの内容は説明されなかった。
だけど、端的且つ簡潔に、伝えたといえばそれはそれ。
「好き」
返事は暫くやってこなかった。
→
2003/10/16