* 鳥ハ自由ヲ求メテ空ヲ飛ブ *
扉の外。
建物から出た時の眩しさは、相変わらず。
目を細めた。
動く右手の方を駆使して、オレは屋上の端へと向かう。
フェンスにがちんと車椅子が当たった。
くるりと方向転換。
「飛び降りたいって言ったら怒る?」
「当たり前だろう!」
声を張り上げる大石。
軽い冗談だったのにな。
あんまり軽くないか。
思ってると、大石は表情を変えた。
切なそうな顔に。
「いや、英二が半分冗談で言ったって分かってるから怒れたんだ」
そう。
いつだって大石はオレの気持ちを一番に汲み取ってくれる。
「本気でそう言われたとしたら…怒れない、かもしれない」
その気持ちは、なんとなく分かった。
だって、あまりに今の大石、悲しそうなんだもん。
微妙に笑顔なんだけど、眉は下がり気味なんだ。
オレも、なんか苦笑した。
「本当のこというとね、大石」
「ん?」
空を見上げる。
「オレ、死のうと思ったんじゃない。飛びたかったんだ」
普段だったら、笑う場面だったかもしれないけどさ。
実際起こったことだから、笑えもしない。
とにかく事実を伝えるのみ。
「自由を探してたんだ」
丁度、鳥が斜め上を通り抜けた。
左右に生えている羽、いいなと思えた。
でも、本当に自由なの?
「本当に自由なのかな」
「―――」
考えていたことをそのまま言われて、少し驚いた。
オレは大石を見た。
大石は空を見上げてた。
「確かに…一見は自由に見えるかもしれないけどさ。
だけど、それもやっぱり限られた自由でしかないんだよ」
「限られた…自由?」
「うん。羽を持っていたって、宇宙まで行けるわけじゃないだろ?
更に人間によって環境が破壊され、高層ビルは立てられ」
大石の横顔、なんか、遠かった。
「自由だから空を飛んでいるんじゃなくて、自由を求めて飛んでいるのかもな」
その通りだ。
強く響いた。
だって、オレの心境と全く同じなんだもん。
自由になれると思ったから飛んだんじゃない。
自由を探してたんだ。
全ての束縛から開放されて。
重く伸し掛かる重圧押しのけて。
何もかもから逃げ出せる場所を探してたんだ。
これは逃げ?
自由を求めることって、逃げなの?
「大石、戻ろ」
「え、どこへ…」
戸惑う大石。
オレは笑った。
「決まってんじゃん、病室にだよ」
「あ、そうだな!」
焦った表情で大石はオレに駆け寄ってきて。
車椅子を押して、歩き始めた。
空は、青かった。
青さの果ては、なんだろう。
建物の中に入ったオレには、もう分からないこと。
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2003/10/16