* 諦めないで、負けないから。 -part.13- *
…負けたな。
格下の一年相手に。
…何やってんだ、オレ。
レギュラー逃したのか?
今日伏見勝ってたっけ。
あぁー……。
「荒井先輩!」
「!」
懐かしいような細く高い声に荒井は覚醒した。
そこに居た者は、言うまでもなく。
「加藤…」
「あの、そのっ」
戸惑っている一年に優しい言葉(…なんて元々掛けたことないか)どころか
あくどいセリフすら吐くことが出来ない。
何だかんだいって滅入っているのか、と思ったとき、勝郎がガバっと頭を下げた。
「ごめんなさいっ!」
えっと、あー…、と口篭もりつつも、勝郎は話す。
「左手で試合したのって、僕のためですよね今日あんな会話があったから、気にして…」
「やめろ」
荒井はストップを掛けた。
困った顔で見上げてくる勝郎。
荒井は照れ隠しで頬を掻いた。
「謝るなよ…情けなくなるだろ」
「っでも…」
泣きそうな勝郎。
荒井は微笑みを向けていた。
そんな顔をするなんて、いつ以来だろう、と後から思ったがそれは別の話。
「お前、テニス好きだろ?」
「え?あ…ハイ」
微笑が苦笑に移った。
「そう言い切れるって、凄ぇよ。オレはたまに分かんねぇ。自分が好きでテニスやってるのか」
「え…」
「でもよ」
空を見上げると、荒井は言った。
「やっぱり、強くなりてぇんだよな」
青い空。
白い雲がゆっくりと流れていく。
ゆっくり、ゆっくり、少しずつ。
「それは…きっと好きだってことなんですよ」
勝郎は微笑んだ。
荒井は照れを隠すために吐き捨てるように言う。
「と、とにかくよ。お前…テニス好きなんだろ」
「はい!」
勝郎の言葉に迷いがなくなったのを確認すると、荒井もまたはっきりとした口調で言った。
「ならやれよ、テニス」
「―――」
荒井には勝郎の次のセリフは見えていた。
(「で、でも…」である。バレバレだ。)
先に言われる前に、自分から声を出した。
「さっきあんなこと言ったオレが言うのもなんだけどよ」
破顔して。
「球追っ掛け回してラケット振ってるだけで、楽しいんだよな」
勝ちを無理に考えて切羽詰るより楽しいかもしんねぇぞ、と。
「荒井先輩…」
「あ?」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みでそう言った。
屈託の無いあまりに明るい笑顔。
「よせって」
と荒井が顔を背けたとき。
丁度視界に入ってきたのは。
「荒井ー!!」
「林、池田!」
駆け寄ってきた二人。
息を弾ませながら、池田が言う。
「お前、セット数でギリギリレギュラー入りだってよ」
「え…マジ?」
「ったく、心配掛けやがってよ」
二人は笑って言った。
「これで、俺たち3人揃ってレギュラー入ってわけだ」
笑顔を交し合う三人。
勝郎も笑った。
「おめでとうございます、先輩たち」
「――」
勝郎の存在に気付いていなかった二人は固まった。
「あ、加藤」
「おお加藤」
「あっこんにちは!」
慌ててお辞儀をする勝郎。
林は「お前も頑張れよー」と言った。
それが嫌味なのか心からの言葉なのか、勝郎には判別がつかなかった。が、
とりあえず、嬉しいのであった。
「それじゃあ、失礼します!」
走り去っていく勝郎の背中を、荒井は暫く見守った後、
林と池田の会話に加わった。
いつか感じたような爽やかな風が、、いつものように吹き抜けていった。
→
ここいら辺がセットで居るといい感じじゃないですか?
2004/06/21