* 諦めないで、負けないから。 -part.5- *
勝郎が目を覚ましたのは、荒井が部屋から去った、正にその10分後だった。
そんなことを知らない勝郎は、ぱちくりと瞬きをすると、時計を見るため顔を上げた。
ぼーっとしている間に、いつの間に眠ってしまったんだろう、
と考えると頭の位置をまた枕に戻した。
その時、自分の頬を何かが擽った。
疑問に思って上半身を起こすと、そこには花束があった。
それを両手で抱え上げようとしたが、右腕が肩より下は動かないことを思い出した。
哀愁を帯びた顔色をしたが、左腕一本でそれを抱え上げ、匂いを嗅いでみた。
それはなんともいい香りがして、自然と笑みが浮かんだ。
うっとりとするのも束の間、誰が置いていったんだ?という疑問に当たった。
看護婦さんは、違う。
もしそうであったら花瓶に入れるか何かするはず。
でも…個人だという話になると、到底予想が付かない。
花屋で買うと良く付いてくるグリーティングカードも挟まっていない。
(まあ、それも名前が書いていなければ意味がないのだが)
色々と考えた末、部活の誰かであろうという結論に達した。
当たっているかは分からないけど。
「ありがとう…ございます」
誰かも分からない誰かに向けて、そう呟いた。
昼寝すると夜眠れなくなる体質なんだけどな、と勝郎は苦笑いをすると、
外の空気でも吸おうかと思って立ち上がった。
部屋を出ると消毒液のような強い匂いがして、
花の柔らかい香りに自分が侵されていたことに、気付いた。
その時、声が掛かった。
「あ、加藤君」
「え?」
そこに居たのは、担当の医師だった。
名前を呼ばれてふり返る。
視線が合うとわざとらしく逸らされたのが気になったが。
「丁度いい。君に、その…話があるんだ…」
「……?」
その医師が動揺していた理由なんて、想像もつかなかった。
その時は、まさかこんなことを告げられるとは、微塵も思っていなかった。
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そろそろ本気で痛いことになってくるよ…。
2004/04/13